もう一度、過去をたどってみる

旅の途中で、何も予定のない日があると、とても贅沢な感じがするものです。
さて、きょうは何をしよう。

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朝と昼はタルティーヌを食べました。
月曜の朝の住宅街。静かなカフェでチョコレートとメープルバターのタルティーヌ。

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お昼はマンハッタンに出て、移転したWhitney Museumの上層階のカフェでアボカドのタルティーヌ。世界中からの旅行者たちを眺めながら。ミュージカルより地下鉄やカフェでピープルウォッチングしているほうが、美術館よりウォールアートを眺めているほうが、おもしろいときもある。

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その後High Lineを歩いて植物や鳥を眺め、地上に降りてからVillageの界隈へ向かい、Bleecker St.の端から端を納得するまで歩きました。

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今回、20年前に行った場所に再訪しよう思って検索した際に、いくつかヒットしたのが閉店した店の情報を発信しているブログ、”Jeremiah's Vanishing New York”のなかの記事で、つまりは店は既に存在していなかったのでした。にもかかわらず、たとえばおばあさんのやっているキルト屋さんとか、かわいい猫のいるアンティークショップとか、20年も経てば当然、その人も店もいなくて当然とも思えるのに、確かめたくて歩いて歩いて歩いてみたのです。企業を退職した後、アメリカの手工芸品を扱う店を短期間、開いていたことがありました。その頃の幻の残像みたいなものが見えないかなと思ったけれど、見えなかった。きれいさっぱり。自分の情熱が足りなかったのかもしれないし、単にそのときあったものたちが、消えてしまっただけかもしれない。町はFOR RENTとFOR LEASEの張り紙だらけ、に思えた。

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でも、小さな本屋さんがあって、ちょっと救われました。

以下はFacebookから。

地価の激しい値上がりでFOR RENTの空き店舗が目立つマンハッタンでは、きっと個人店の本屋さんも、この20年でたくさん廃業しているのだと思うけれども、それでもまだ小さな本屋さんが残っていてほっとした。地下鉄のなかでも、ぶあついハードカバーの本を読みふけっている人が目につく。みんな読書家だ。地下鉄ブックレビューというインスタグラム(地下鉄で出会った読書人を本と一緒にUPし続けている)をわたしもフォローしていて、おもしろいのでいつか東京の地下鉄でやってみたいと思っているのだが、実際のところ東京ではスマホをいじっている人ばかりでハードカバーの本を読んでいる人なんて皆無に等しい。NYの地下鉄はあまり電波が入らないせいか、スマホをいじっているひとはほとんどいない。


本屋さんに入るたび、"Goodbye for Now"の原書を探してもらった。ネットでは探し物は必ず見つかるし早く入手するにはベストな手段だと思うけれど、急がないものは日本でも本屋さんで買う。本屋さんに消えてほしくないと思っているから。

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残っているものがよくて新しいものがよくないというわけではなくて、新しく知った素敵なお店もたくさんありました。
たとえばVan Leewen artisan ice cream。自然派のアイスクリーム店。
ハニーカム、紅茶、ヴィーガンチョコレート(乳製品を使っていない)などが、とても気に入りました。お店によって(店員によって)盛り方が違うのが、らしいというか、おかしい。アイスクリームが好き過ぎる様子の女性が時間をかけてたっぷり盛ってくれた店では、その笑顔に癒されました。好き、って大事。

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夜はDBGB Kitchen&Barでシグニチャーバーガーを。再びBouludのお店で丁寧に作られたアメリカ料理。この日は一日、東京と大差のないカフェの食べ物で過ごし、食に冒険を求めなかった。

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DBGB(Daniel Boulud Good Burgar)は昔、CBGBというクラブのあった場所。30年くらい前は、行ってはいけないエリアに入っていた気がします。

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下記もFacebookから。

SUBWAY。30年くらい前は(と書きながら自分で自分の年に驚くのだけれども)行ってはいけない危険なところというのがあって、地図にくっきり境界線など引いていたものだったし、地下鉄にはずいぶん緊張して乗っていたものだった。それが最近はどこの駅にも柔軟剤の匂いみたいなのが漂っているし、なんとなく明るくてきれいなのだった。列車の恐ろしいほどの轟音はそのままだった。そしてやっぱり、構内ではものすごくレベルの高い歌やトランペットやヴァイオリンを楽しめた。トークンはかなり前からメトロカードに変わっていた。タッチではなくてスライドで、通すのがゆっくりすぎるとごついバーに阻まれて通れず、電光表示でもっと早くスライドせよと表示された。早すぎてもいけなかった。スイカはピーだけどメトロカードはピーーーと間延びした音が響くのだった。それからそれから、駅名のモザイクは全部の駅、撮りたいほどすきだった。
今回もマップが切れるほどいろいろな路線に乗った。

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ほんとうに、行きたいと思いながら20年、ようやく訪れた、好きだった場所。出会う人もモノも変化していて、なにより自分も変化している、と感じた旅でした。で、もう一度行きたいか、と聞かれたらやっぱり行きたい、と思うのです。

 

 

Blue Hillへ

先日、Dan Barber(ダン・バーバー)の話をFacebookに書いたこともきっかけとなって、Megumiさん、Yoichiroさん一家とアップステートにあるダン・バーバーの農場、Blue Hillに行くという夢のようなことが実現しました。

 

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少し前に、「おいしい」の叡智 ~食のプロフェッショナル3名によるトークセッション(楠本修二郎さん、山田チカラさん、小山伸二さん)なるギャザリングに参加して、そこでDan Barberのことを知りました。私自身、料理人やパン職人にインタビューさせていただく際に、おおげさでなく地球の平和について話題になることが多くなってきているのを体感していたし、この食べものはどうやってつくられたのか、それは何故かと考えることはいつもの取材の核にあるのです。そして誰でも「おいしい」にまつわる消費に、社会に、自分の一票を投じたり、投じなかったりできるのだから、もっといろいろ知っておかなくてはね、というようなことを思っていた。そんな時に拝聴したDan Barberのスピーチには感動がありました。

とても面白いです。「驚くべきフォアグラ物語」(日本語字幕あり)


その彼が経営するBlue Hillという農場はブルックリンから車で40分くらいのところにあります。子供と一緒に湧水を汲んで飲んだり、羊や牛や七面鳥など、動物たちを眺めたりしながら歩く、その全方位に高層ビルが一つも見えない。休日に訪れるのにとてもいい癒しの場なのだとMegumiさんに教えてもらって、ニューヨークの広さをあらためて思いました。どんなに歩いても疲れないし、空気も食べものも、なんでもおいしくて、本当に幸せな場所でした。Dan Barberには会えなかったけれど、ご縁とは不思議なものです。

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午後はブルックリンに戻って、ウィリアムズバーグの古着屋さん巡り。私はなにも買わなかったけれども、服も家具も古いものを使いまわしてモノとしての寿命を長くするのって、悪くないと思います。家の前に「ご自由にお持ちください」と書いて置いてある椅子や箪笥や棚にもよく出合います。合理的です。この青い棚を眺めていたら、家からおばさんが出てきてニッコリ笑って「これもどうぞ」とヤンキースのキャップを置いていきました。

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夜、再びMegumiさんたちと合流してBushwickの倉庫のようなピザ屋さん、大人気のRoberta'sへ。ストリートパフォーマーもたくさんいて、躍動するヒップな町、という印象。熱気に満ちたお祭り騒ぎの夜。長い日曜日でした。

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Local,Organic,Craft and Comfort

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週末はFORT GREENEのグリーンマーケットへ。ドッグランで朝晩、犬たちが幸せそうに走り回っている公園です。ここも近郊農家の野菜や果物、パンや乳製品のつくり手たちのお店で賑わいます。NYのリンゴはマッキントッシュ、フジ、ハニークリスプなど、何種類もあって、小さくて味が濃くておいしい。リンゴやヨーグルトなどを買いました。

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その後、家主さんおすすめの、地元の人で賑わうカウンターだけの小さなコーヒーショップ、Bitter Sweetへ。オリジナルのベイクもののほか、DoughのドーナツやBalthazarのパンなど、少量ずつセレクトされたものがショウケースにあります。店の前は犬たちを含めた井戸端会議の場で、いろいろな種類の犬たちが素晴らしく利口でかわいい。どの犬も買い主がコーヒーを買うのを大人しくステイして待っているのです。 f:id:mihokoshimizu:20170101195026j:plain

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そこのコーヒーとスコーンを手に、歩いて数分のもうひとつのフリーマーケットへ。以前は週末というとAntiquing(骨董商巡り)していたものですが、今回はそんなに積極的にならなかったのはなぜか。物欲が減ったのかも?

そこにもブルックリンで有名なドーナツ屋さん、Doughが屋台を出していて、レモンポピーシードをひとつ、買いました。グリーンマーケットから始まって、移動ブフェのような朝食。こういうのも旅先ならではです。

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ドーナツは大きいけれどふわふわで、甘さは控えめ。レモンの酸味も効いています。その日の分だけ仕込み、職人がひとつひとつ手作りするのだそうです。
ハンバーガーもドーナツもコーヒーも(その後、ピッツァやアイスクリームやパイにも出合うのですが)アメリカ人が子供の頃からおもに大量生産のファストフードとして慣れ親しんだ食べ物が最近、オーガニックや地元の厳選素材を用いた、職人の手によるクラフトフードとして新たに注目を浴びてブレイクする、という流れがあるようです。

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新しいものではなくて懐かしい、親しみ深いあの食べ物が、添加物が多用される前、すなわち半世紀~1世紀前のレシピで手間をかけてつくられて、目の前に登場するのです。これがおいしくないわけがない。ただの懐古趣味ではないのですね。

 

午後はPAUL AUSTER(ポール・オースター)の住む、パークスロープを散歩。『THE BROOKLYN FOLLIIES(ブルックリン・フォリーズ)』は大好きな一冊です。(本を読む人にはおすすめです)。

賑わっているカフェに並んでレンズ豆のスープをテイクアウトして店の前のベンチで食べました。NYの豆のスープが好きです。こういうときにも便利だし、これからの寒い季節には、ひとり旅でもお金があまりなくても、たっぷりの豆のスープが心も体も温めて助けてくれます。こういうのは真似をして家でもよくつくります。

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夕方はNY在住のMegumiさん一家とGowanusのpie bakery、Four&Twenty Blackbirdsで待ち合わせ。行列ができているのになんとなく流れてみんな自然に座れる、セルフサービスの素敵なカフェです。やはりここにも大きなテーブルがあって、ゆったりと新聞を読む人の姿も。Salted Caramel Apple はざっくりとして家庭的な味がほんとうにおいしくて、温かい気持ちになり、スイスイと食べてしまいました。

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それもそのはず、ここのパイは姉妹がおばあちゃんのレシピで焼いていて、その素材はできるだけ地元のオーガニックのもの、季節のものにこだわって、精製され過ぎない、蜂蜜などナチュラルな甘味が使われているのです。姉妹はなんとSouth Dakota出身とか。わたしがアメリカで初めて訪れ、ひと夏を過ごした場所です。その時に、手作りのおいしいパイをご馳走になったことを思い出しました。

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さて。Four&Twenty Blackbirdsのあとは、再び、アンドリュー・ターロウ系列のお店、Marlow&Sonsで夕食を。となりは食材店のMarlow&Daughters(肉売り場が圧巻)、その並びのビーガンチョコレートやアイスクリームなどの小さなお店、Doctor.cowにも行きました。どのお店も気取りがなくカジュアル、そして本質的にすごくいいものを揃えていて、価格的にはデフレの日本から行くと、ちょっと高価に感じます。しかし、味に間違いはありません。

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いわしのフリットに水牛のチーズ、ローストチキンにトウモロコシやいろいろな野菜のグリル、オイスター、そして初日にも食べたSHE WOLF BAKERYのパンにたっぷりのバターと岩塩。やはりパンに力がある。料理は素材を活かすシンプルな味付けで、とても気に入りました。アンドリュー・ターロウの店はここもガヤガヤと大賑わい。おいしいもの尽くしの夜になりました。

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Friend of a Farmer

昨日の午後はダウンタウンをArcade Bakeryまで歩いて(美術館に続きJust closed。そんな日だったのかも)からブルックリンのアパートメントに戻り、地下のランドリールームへ。
そこはまさにアメリカの普通の家らしさがあって、奥の薄暗がりになにがあるかわからないところがちょっと怖く、Wordsworthの古い詩集がぽん、と置かれているのを洗濯の合間に眺めたり……というようなことが私にとってはすこぶる楽しく、ひとりで地下室で洗濯をするくらいで勇敢な気持ちになっている自分も結構おかしく。

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夕食は近所のフランス系の人がやっている謎めいたカフェで、時差ぼけの目をこすりながら。頼んだメニューが、シイタケマッシュルームのラザニアやロメインハートのサラダ、そして(今でも夢かもしれないと思う)2.5センチ角のフレンチフライのついたビスケット生地のバーガー。NYのフランス人がつくるハンバーガーのバリエーションのひとつでしょうか。シュールで、眠すぎて、写真はナシです。

そして翌朝。

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朝一番に、パンケーキが食べたいと夫が言うので、地下鉄を乗り継いで、再びマンハッタンはIrving PlaceのFriend of a Farmerへ。いまはすっかり高級ホテルに様変わりしてしまったGramacy Park Hotelが古いホテルだった頃、滞在した時に見つけたお店でした。地価高騰するマンハッタンで店が消えていくなか、変わらずに残っていることはすごいことです。変わらずにというのも大切なポイントで、店はあっても中身がすっかり変わっていることもあるのです。

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Farm to Tableという言葉がトレンドとなって久しいですが、Friend of a Farmerはもう30年もそんなことをやっている、草分け的なお店のひとつ。サービスの女性に20年前にもその前にも来たと言ったら驚いて(そうでしょう。彼女は赤ちゃんだったかも。すごく昔のように思えるはず)よろこんでくれました。

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自家製のアップルバター付きの、Apple buttermilk pacakes。この味だった。こういう、ふわふわし過ぎないパンケーキが好みなのです。

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食後は横なぐりの雨の中、Union sq.のGreen Marketへ。パン屋さんや焼き菓子屋さんも出店していて、グルテンフリーの食べ物はここでもあちこちにありました。近郊農家の、色とりどりの野菜たちが楽しくて飽きず、雨にも関わらず端から端まで見て歩きました。

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いつもどこかで特別なイベントとしてではなく、あたりまえに市場が開かれていて、農家の人やパン屋さんやチーズ屋さんが決まった場所へ売りに来る、地域の人にとって、なくてはならない場所となっている感じがほんとうに素敵でうらやましく思いました。

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それからStrand書店やChinatownの店など毎回行く、何十年もそこにあり続ける店を確認しに行く一方、テーマやコンセプトでまとめられたフードコート、商業施設にも行ってみました。そうした場所はガイドブックでは行くべき場所のように書かれており、それなりに賑わっているのだけれど、個人的にはほとんど興味がそそられなかった。お店はそのお店独自の匂いと佇まいで、かつてそうであったようにひとつひとつ光りながら存在しているほうがそそられるのです。あと10年、20年したらここはどんなふうに変わっているだろう。

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夜はロブションNYの山口さんと、Greenwich VillageのBlenheimへ。自家農園直送の野菜のおいしいレストランです。ケールを焼いたり、芽キャベツを素揚げしたりするのが新鮮。ボディのしっかりした野菜は、そうした調理法に馴染むのですね。時差ぼけピークでしたが、お元気そうな山口さんにお会いできてよかった。来年は新しいブーランジュリーもいよいよ動き出しそうです。

Bakeriから始まった長い一日。

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朝、Greenpointのベーカリーカフェ、Bakeriへ。Bakeriの読み方は、「バケリ」というそうです。大きなテーブルに夫とのんびりと腰掛けてコーヒーを飲み、マフィンなど食べながら友を待ち、朝の店の雰囲気を楽しみました。

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古風な木造のレジスターの台の上に、タブレットを設置しているのが今風です。
奥はオープンキッチンで、カウンター席からパンをつくるところが正面に見えるのが楽しい。大型のパンは朝のうちに焼き上がっています。

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色とりどりの花や果実が描かれた壁紙にシャンデリアという、女の子の部屋のようなスイートな雰囲気のなかに、建設現場の作業員風な男性のお客さんの姿もあって、そういえば、ブルックリンではコンビニをほとんど見かけないなぁとあらためて思ったのでした。個人店に活気があり、個人店主とのつながりを大事にし、応援する人が多く住む界隈……だとしたら、素敵だ。

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これもまた可愛い、バラのかたちのマフィンは、レモンポピーシードとピーチ。
レモンとポピーシードの組み合わせの焼き菓子が好きで、見つけると素通りできません。

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朝食後はプラスキー橋を歩いて渡って、地下鉄でマンハッタンの66th stを目指します。
私がNYに行かない間に、ミッドタウンの新しい建物に引っ越して、そして再び古巣に戻ってきていたAmerican Folk Art Museumに行くために。Henry DargerのCollectionも観たかったし。ところがClosed。帰国まで展示入れ替えのために休館という憂き目に。がっくり肩を落とし、案内の人にも慰められたのでしたが、残念過ぎました。でもいつか再訪する理由が、これでひとつできました。See you someday......

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お昼は気を取り直して、リンカーンセンター近くのÉpicerie Bouludのカフェへ。観劇や買いもの前後にちょっと寄るのにいい場所。
フレンチのシェフ、Daniel Bouludさんはいくつものレストランやカフェやバーを展開しています。新進気鋭のシェフ・ブーランジェ、François Brunetさんが以前、Bread Journalにメッセージを寄せてくださっていたことも良いきっかけとなって、訪れてみたのです。

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ここは食料品店内のセルフサービスのカフェ。とはいえ、カウンターテーブルの目の前に新鮮なオイスターが何種類も並んでいたりなどもします。

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ジャンボンフロマージュと熱々のカリフラワーのポタージュは、まさにこのお昼に食べたかった味でした。夫が選んだDBGBドッグ(ブリオッシュ生地)もまた、量も質もテイストもまるで東京で食べているような気持ちに。パリでもNYでもなくトーキョー。こういう食事の差異は縮まっているのかもしれません。

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大好きなNYへ

9月28日からNYに行っていました。
と、3か月ぶりにBread Journalを時系列に更新しようとしています。できるかな?

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以下Facebookより。

20年ぶりにして7回目のNYは何もかも初めましてな気分ながら、実際に初めてのことが多く、おもしろく。iPhoneを持って行くとか、Uberを体験するとか、Brooklyn で部屋を借りるとか。かならず訪れる美術館(Anerican Folkart Museum)は展示替えのため閉館中でがっくりでしたが、借りている部屋はFOLKARTや美しい古い家具たちが迎えてくれて、昔訪れたアンティークディーラーさんの家のよう。鬱蒼とした草花にくる虫除けなのか、夕方に戻るとキャンドルが灯っています。とくに観光の予定もなく、普段の生活を並行移動させてそのギャップを楽しんでいます。

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そう、洗濯したり、リンゴを買ったりが、楽しかった。20年前と同じに。

 

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After a long flight,we went to Roman's.
最初の夜に行ったROMAN'Sは心地のいい小さなレストラン。
パンはSHE WOLF BAKERYのもの。
香ばしいクラストは薄く、中身はふわっと軽いのにたっぷりのワイルドな旨みがある。
そういえばアメリカの小麦はこんなふうな力強さがあった、と、ちょっと思い出した。

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SHE WOLF BAKERYは2009年にこの店の薪窯で始まったそうです。
いまでは、別の場所に工房を構え、市内のレストランに卸し、グリーンマーケットでの販売もしています。
NY産の小麦粉を使っているところが素敵です。

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とにかくひどいフライトの後だったので、野菜の味のする野菜や、パンの味のするパンに身体が喜んでいるのがわかりました。ポテトフリタータ、野菜やチーズの前菜、ひよこ豆とレッドペッパーのマリネとブロッコリのパスタなど、お腹に優しそうな食事を、窓際のカウンターで、小雨を眺めながら摂りました。

そのうちにわかに混み始め、立ち飲みの人も。ものすごく賑わっているのに心地いいお店でした。

 

ここはアンドリュー・ターロウのお店です。アンドリュー・ターロウのことは確か、この本で知りました。

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本当に必要なものは何か、考えてみること。自分が口にするもの、身につけるものは、どこで作られどこからやってきたのかを知ること。社会的な責任を大切に考える企業を支持すること。多数のそうした意識の積み重なりが、今のアメリカを少しずつ変えている。

そういうことを感じる旅にもなりました。

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レフェルヴェソンス 生江史伸さんのパン時間

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』42人目のインタビュイーは高樹町のレストラン、レフェルヴェソンスの生江史伸さんでした。

おいしいパンの向こう側にはどんなひとがいるのかに興味を持ったことから始まって、パンそのものより職人さんとそのひとの居る場所(店)の成り立ちかたにアプローチし、執筆していくなかで、そのパンの受けとり手の一個人として、自分の日々のパンの楽しみについても紹介してまいりましたが、同時に、食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。

パン職人が誇りを持って、気持ちよく焼くパン

生江史伸さん /  レフェルヴェソンス  エグゼクティブ・シェフ

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この人のパンが食べたい、という感覚

 パンはいつも、この人が焼いたパンを食べたい、という感覚で食べています。

東京なら、つい先日も一緒に北海道の小麦農家さんを訪ねた「カタネベーカリー」の片根大輔さんが焼くパンが好きです。「ガーデンハウスクラフツ」の村口絵里さんのパンも好きで、国産小麦であれだけのクオリティのパンを焼いているっていうのは応援したいと思うし、嬉しい気持ちで食べますね。

あれはおいしかったなぁ……と記憶に残っているのは、北海道のウィンザーホテルの「ミシェル・ブラス」にいた当時、ホテル内のブーランジュリーで神幸紀さんという職人が週末に焼いていたトゥルトです。一緒に働いていたフランス人と買いに走って取り合いするように食べましたよ。肉を噛みしめるような食感で、香りがあってすごく旨かった。そのトゥルトを2cmほどの厚さに切って軽く焼いて、冷蔵庫から出したてのバターを塊のままのせて、ミシェル・ブラスで当時ぼくがつくっていたミルクジャムをかけて食べるっていうのが、最高の幸せでした。

 大阪から届く、レストランの料理のためのパン

そんなパンを店で使いたいと思って「ル・シュクレクール」の岩永さんにお願いしました。ぼくの好きなパンをきっと知っているという期待があったし、考えかたが似ていたからです。彼はパン生地を生き物として扱うんです。ぼくも塩と水以外の素材は生き物、あるいは生き物から抽出されたものとして常に対峙しています。

最初の「ラ・ボンヌ・ターブル」ではパンの味や香りの強さ、焦がし方、そして食感など多くを岩永さんに要求したんです。でも次にお願いした「レフェルヴェソンス」では、岩永さんが一番好きなパンを焼いてくれたらそれでじゅうぶんだと伝えました。パン職人が一番気持ちよく、誇りを持って焼くパンこそがお互いの幸せに繋がるんじゃないかと考えて。そして「パン・ラミジャン」に決まりました。結果として皆さん、パンがおいしいおいしいって(笑)。あのゆったりと大きなラミジャンは大阪から配送しても全くびくともしないし、ぼくらはいい具合にライ麦がなじんできた頃に使うことができる。むしろ2、3日置いたほうがおいしいんじゃないかと思っています。

 なぜパンに豆腐とサワークリームを合わせるか

パンにはやっぱりバターだと思います。でも、昨今のバター不足は大きなバターの消費者でもある飲食業として目をつぶれない。対応していく責任がある。もしぼくらがバターではないものでいけるんであれば、バターを本当に使わなきゃならない人たちが救われる。そこでレフェルヴェソンスではパンには豆腐と自家製のサワークリームでつくったスプレッドを添えることにしました。豆腐とサワークリームというアイデアは、当時「ブレストンコート ユカワタン」で総料理長を務めていた浜田統之シェフにヒントをいただきました。

豆腐は自然酒の蔵元、寺田本家からの紹介で「月のとうふ」。寺田さんが引いている地下水系の水で作っているのだから、おいしくないわけがない。大豆も地元のものです。店主の方にわけを話して「豆腐とは違う形になってしまうんですが」とお願いしてみたところ、こころよく送ってもらえることになりました。油脂分がないと味に深みが出ないので、高松の「SOUJU」のすごくおいしいオリーブオイルをかけています。

 古き良きものを守り、同時に新しい地平を探す

 ハタハタという絶滅寸前までいった魚からつくられる発酵調味料に「しょっつる」というのがありますが、これもぼくはスイーツなど新しい用途に用いることがあります。それによって「しょっつるって何?」と考えてもらえたら、それは秋田の海を守ることに繋がっていくんですよね。そういうことを、おいしい経験によって繋げたいと思っているんです。

青山パン祭りでは片根さんと一緒に焼きそばパンをつくりました。彼が青海苔の食パンを焼いて、その上にぼくがしょっつる焼きそばと半熟の目玉焼きをのせて、仕上げに青海苔のクルトン。2日間で200食、昼前にはなくなっちゃいました。どこで料理を作るのも自分のなかでは変わりません。

方向性としては古き良きものを守り、伝承していくことと、新しい地平を探していくことが、並列されていないと意味がないのですが、ぼくの仕事にはそれをよりいっそう新しいかたちに具現化していくことが託されているんじゃないかなと思っています。

 

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生江史伸 「レフェルヴェソンス」エグゼクティブ・シェフ

1973年横浜市出身。慶応大学法学部政治学科卒業後、「アクアパッツァ」などを経て、2003年「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で研鑽を積む。2008年、ロンドン近郊の「ザ・ファットダック」でスーシェフ及びペストリー担当。2010年、西麻布「レフェルヴェソンス」エグゼクティブ・シェフに就任。2015年、日本橋に「ラ・ボンヌ・ターブル」をプロデュース、そして「レフェルヴェソンス」をリニューアルオープン。2016年度「アジアのベスト・レストラン 50」にて、16位にランクイン。

 

『NKC Radar』Vol.75 p.26より転載

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