FAVORITE WORKSのこと

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17年ほどまえに開設したホームページ
FAVORITE WORKSをこの9月いっぱいで閉める。

今はもうブログやべつのサイトに引っ越しをすませているので
がらんとした空家のようになっている。
古い写真が落ちていたりして。

そこで最後の片付けをしながら、ちょっと書きたくなった。
私がパンにかかわる仕事を始めたわけなどを。


FAVORITE WORKSというのは
私が自営業者として持っている屋号だ。

好きな仕事であると同時に気に入った作品も意味する。
自分の、あるいは誰かの。

夫が独立して、いったんは建設業界を離れて
結局、戻ってくることになるまでの数年間
彼もそこで、自分の好きな仕事、気に入りの作品を模索した。

負債のあるマイナスの状態、ではなくて
家と仕事のないゼロの状態から始めるとき
これからはインターネットの時代だから、と言って
清水の舞台から飛び降りる感じでパソコンを一台買い求め、
FAVORITE WORKSは開設された。
犬一匹と暮らす、木造アパートの二階で。

FAVORITE WORKSで、私は夫がつくるものを売った。
犬の散歩バッグ、日よけのコート、おもちゃ、季節の花や草木のリース。
それは実益にはならないが、求められ喜ばれることに癒されていた時期だった。

ネットでものを売るときに、それが何であれ、わたしが最も大切に思ったことは、
どんな人がそれをつくっているのか、どんな人がそれをいいと思って、
売っているかを、知ってもらうことだと思った。
とくに実店舗がない場合には、それが信用を少しでも得るのに
必要不可欠なことに思えた。

私はこういうものを好ましいと思い、こんな日々を生きています。

ということを、FAVORITE WORKSのホームページの核にした。
ブログのない時代だった。ひとつひとつ、HTMLで書いてはアップロードした。
HTMLをおぼえるのは私にとって、ホームページ作成ソフトを使うより難しくなかった。

扉。

好きなこと、お気に入りのもの。

毎日の暮らしの中で、自分の感性にこだわって生活していくこと。
少しだけ心を込めればできる自分のための素敵で贅沢なこと。

おいしく作って楽しく食べる。
時を経た物たちのやさしい美しさの探求。
家族や友人や恋人との大切な時間。
気持ちよく過ごすための工夫と心を込めた手仕事。
シンプルで居心地のいい毎日を。
私たちの好きなものをお伝えします。

そして書いた。

日々の料理のこと、食のこと。
犬のこと。好きなもののある暮らしのこと。
旅の想い出。

いろいろなものを失くしたけれども
好きなこと、お気に入りのものがあれば大丈夫、と思った。
それはToday's Favoriteというブログに、今も残している。

Today's Favoriteへの扉には、こんな前置きを書いた。

サウンドオブミュージックという古い映画で確か、
子供達が嵐の晩、好きなものを思い浮かべて
恐怖を忘れるというシーンがあります。
そんなふうにどんなにタフでハードな時でも、
好きなものやお気に入りを思い出すことができればダイジョブ!
だから日々、それらを発信してきました。
それがToday's Favoriteのページです。

私は広告代理店で翻訳の仕事をしていた母
(私と妹が大きくなるまでは専業主婦で、
やがて中学校と高校の英語の教師をした)と、
編集の仕事を経て大学の職員になった父のあいだに生まれた。

子供のころから、ものを書く仕事をするのが夢だった。
学生時代はいろいろなアルバイトを経験したが、なかでもいちばん
楽しかったのは、銀座の広告代理店でアルバイトをしたことだ。

写真も父や祖父の影響で、子どもの頃から親しんだ。
FAVORITE WORKSを開設した頃は、先行きも不安で、
(それは今も変わらないけれども)
そんなとき、写真を撮って、それについて書いた。


そのうち、ネットを通じて友達ができ、総合情報サイトAll Aboutの
立ち上げについて教えてもらった。
募集ガイドのなかに、パン、というテーマはなかった。
東京ではおいしいお店があちこちにあって、パンを買うのが楽しかった。
これからもっとおもしろくなる予感がしていた。
パンというテーマなら、わたしはきっと、365日書いてゆけると思った。

そしてパンガイドになり、パンについて書くことになった。

母は私が子供の頃、家でパンを焼いてくれていた。
勤め人時代、毎年のように出かけたNYやサンフランシスコで、
素敵なパンに出合った。時々、自分でもパンを焼いた。

けれど、わたしはパン業界の人ではなかったし
パンの専門学校にも行っていないし、パン屋さんで働いたこともなかった。
日に何軒も店を食べ歩くマニアや愛好家でもなかった。

だから書くために、職人さんに話を聞いた。
窯の前で何時間も話をすることもあった。
職人さんの仕事は見ていて飽きなかった。

おいしさの向こう側にある、魅力的なもの。
それが書きたいことの中心にあった。

パンに関する知識は、職人さんに直接教えてもらった。
人生について語ることもあった。
今まで取材させていただいた職人さんは皆、私の先生だ。
生徒はひとり。なんという贅沢。

自分の時間で、自分のお金で、自分の足で、そこへ行き
ただでさえ忙しい人たちの貴重なひとときを分けてもらい、
時にはパンまで分けてもらった。かけがえのない時間だった。

取材をして、文章になったとき、
「自分がやってきたこと、なんとなく思っていたことは、
こういうことだったのだ、とあらためてわかった」
と職人さんにいわれると、とても嬉しかった。

きっかけとして、FAVORITE WORKS があった。

私は、文章が書くのが好きで、パンの仕事を始めた。

to be continued......