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パンの役割、トーストの意味、そしてオリーブオイル。勅使河原加奈子さんのパン時間

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』43人目のインタビュイーは有限会社クレマ代表の勅使河原加奈子さんでした。 

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。許可を得て転載します。

 

パンは道具ですよね。食事をいっそうおいしくする。
勅使河原加奈子さん / CREMA代表

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トーストするのは食感のコントラストをつくるため

実家にいた頃から、朝食には必ずパンをトーストして食べています。バターが溶けた時の香りや表面のカリッと焼けた感じや、中身のもっちりした感じが好きで、トーストするということの目的は、考えてみれば、食感のコントラストをつくることなんですね。フランス料理の仕事に関わるようになって、ハード系のパンの圧倒的な皮とミ(中身)のコントラストの魅力を知ったので、最初からビニール袋に入っているようなパンだと買えない。皮があるのになぜ袋に入れているんだろう?って。皮がグニャグニャになっちゃうじゃないですか。
2週間前にパリの「デュ・パン・エ・デジデ」で買ってきたパン・デザミの最後の一切れを今朝、食べたんですが、あのパンにバターをがっつり塗って食べると、乳脂肪のミルキーな感じとクラストのこんがりと焼けたスモーキーな感じが合わさって、カフェオレみたいな味がするんですよ。それと同じ感覚を持ったのが、日本橋のレストラン「ラ・ボンヌ・ターブル」で出しているパンです。中のフワフワと表面の焦げ茶色に焼けた皮の味のコントラストがたまらないです。

酸味と役割

ひとり暮らしを始めてからはおもに、ハード系の黒っぽいカンパーニュを買うようになりましたね。噛んでいる時に感じる酸味がすごく好きなんです。フランス料理は今でこそ、ソースや油脂分が少ない傾向にありますが、もともとワインに酸があり、パンにも酸味のあるものがあり、それらは濃厚な食事を心地よく愉しむための大切な道具だったんです。酸は肉やソースの油を流し、食欲を刺激し、口の中をリセットし、もう一回食べたいと思わせる重要な役目を果たしていると思います。

バターとハチミツを溶かしながら食べる

朝食用によく買うのは「パサージュ・ア・ニヴォ」のリ・コンプレ。玄米を用いたハード系のパンです。焼いた時の香ばしさと米粉パンらしからぬ感じが好きです。あとは「ル・プチメック」のパン・オ・セレアル。気泡のバランスとアマニがすごくいい。食べ方は、厚く切ってトーストしてバターを塗るか、オリーブオイルをかけるか。バターを塗る時は絶対に冷たくて固いバターじゃないと嫌なんです。冷たいかたまりが少しずつパンの上で溶けていくのが好きなので。ハチミツも固めが好きなので、結晶しやすいフランスのラベンダーか鳥取のレンゲを使っています。固めのバターとハチミツがトーストの熱でだんだん溶けていくところがすごくおいしいんですよ。

セドリック・カサノヴァのオリーブオイルの愉しみ

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その日の気分でパンにオリーブオイルをつける時もあります。「ブランジェ浅野屋」のローズマリーのフォカッチャや「エスキス」の成田一世さんのつくるリュスティックはオイルと馴染みやすいですね。「ル・プチメック」のセレアルを焼いてオリーブオイルをかけるのも大好きです。
「セドリック・カサノヴァ」のビアンコリーラ種のオリーブオイルは爽やかなテイストなので、朝食に向きます。ほかに、セドリックの食材にドライトマトがあるんですが、これでトラパニペーストをつくっておくと、ワインのいいおつまみになります。 トラパニというのは港の名前で、トマトとアーモンドの組み合わせをそう呼びます。ドライトマトに生ニンニク、炒ったアーモンド、オリーブオイルを足しながらフードプロセッサでペーストにするんです。これをスライスしたバゲットにそのまま塗ったり、クリームチーズと合わせておいて、焼いたパンにニンニクをこすりつけた上に乗せて食べてもおいしいですよ。


セドリックの店でお客さまにオリーブオイルのテイスティングをしてもらう時には、「ラ・テール」のバタールを使っています。パンが主張し過ぎず、塩味がちょうどよく、気泡がしっかりしているので。気泡がある程度イレギュラーに並んでいるほうがオイルを吸い過ぎなくていいんです。セドリックが考えた人参のサラダは、スライスした人参でコリアンダーとミントの葉を巻いて、「リコッタ・サラータ」というチーズをおろしかけ、さらにピリクダーラ種のオリーブオイルをかけるんですけど、チーズとオイルが混じったところがとてもミルキーな味わいになるので、その時には新たにパンを切って、残さずつけて食べてもらっています。

だからパンは道具ですよね。食事をいっそうおいしくする。そしてオリーブオイルは、油というより調味料ですね。どんな料理や食材にでもかけられる。


勅使河原加奈子 / 「CREMA」代表

東京生まれ。学習院大学文学部フランス文学科卒。ワイン専門商社勤務、フランス人シェフ招聘を務め、2000年にフードデザイン&イベントプランニング「CREMA」設立。ハチミツ専門店の立ち上げやホテル、レストランのコンサルタントなど食全般の仕事の中にはフランス語通訳、翻訳も含まれる。訳書に『ジョエル・ロブションのすべて』(武田ランダムハウスジャパン)がある。
2016年9月シチリア産オリーブオイルとシチリア食材専門店「セドリック・カサノヴァ」をオープン。

(NKC Radar Vol.76より転載)

【関連記事、サイト】

パリの一流料理人、菓子職人御用達、自然農法のオリーブオイル。(2016.12)

セドリック・カサノバのラ・ターブル・ユニーク: Bread Journal(2014.07)

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