ささやかだけれど役に立つこと

先日の日記に書いた『バースデイ・ストーリーズ』。
そのなかのレイモンド・カーヴァーの『風呂』という短編を読んだ時、
「ちがう!」と思った。

それは、パン屋さんの出てくる話だったけれど
かつて読んで記憶していた話ではなかった。
だいじなところを全部そぎとってしまったようなショートバージョンだったから。

ロングバージョンは『ささやかだけれど役に立つこと』
(原題 ”A Small,Good Thing”)

訳者である村上春樹さんはそれをよく小確幸、という。
わたしは時々その言葉を借りて、この小説のように、パンにたとえる。

先日、サマンサさん(カフェごはんの川口さん)とのメールのやりとりのなかで
小確幸(”A Small,Good Thing”)の話になった。
サマンサさんの『東京カフェマニア』にも
A Small,Good Thingという言葉があった、と思った。

誰にでも自分のA Small,Good Thingがあるはず。

『ささやかだけれど役に立つこと』は
大切な人の喪失の悲しみに暮れる夫婦と孤独なパン屋さんのお話。

わたしは、断然、たいせつなところがちゃんと書いてある
ロングバージョンがすきです。

「何か召し上がらなくちゃいけませんよ。」とパン屋は言った。
「よかったら、あたしが焼いた温かいロールパンを食べてください。
ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならんのだから。
こんなときには、ものを食べることです。
それはささやかなことですが、助けになります。」

『ささやかだけれど役に立つこと』より