その日の表情を撮る/ 階段をのぼる犬
パン屋さんの取材から戻ると
午後の日差しが残るうちに写真を撮る。
できるだけ、その日の表情をその日の光で撮りたい。
ライトを使わず、光を求めて場所を移動する。
しっぽをそよそよ振って静かに迎えてくれる
小豆頬髭犬のグー(小さいミニチュアシュナウザーの
グレイス)にかまってやらず、上の階で撮影をしていると
一段ずつ、懸命に階段をのぼってくる音がする。
彼女は鉄の感触が苦手で、この階段は無理だった
はずなのに、最近のぼれるようになった。
ただ、一緒にいたい一心で。
降りることはできないので、途中で止まってしまうと
途方にくれている。この困り顔は、可笑しくてせつない。
あきらめてそのままそこで寝ている彼女を起こして
パンのかけらを少しだけ、一緒に食べてから
わたしたちは、遅い夕方の散歩に出かける。