パン窯職人の仕事
上智大学ソフィアンズクラブで開催された
パン文化研究者舟田詠子さんの講演に出席しました。
テーマは「パン窯職人の仕事」。
今年1月のメールマガジンに書いた「忘れられたパン窯の再生」
を、ここに転記しておきます。
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今週、オーストリアからパン窯作りの親方が来日して、伝統のパン窯
を青梅で複製するのだそうです。
舟田さんは青梅の森を管理する会社から、薪の有効利用としてのパン焼
きの相談を持ちかけられた時、オーストリアの村の農家で今はもう使わ
れることもなくなってしまった伝統の窯のことを思い浮かべました。
その窯とほぼ同じものを日本につくるのは、文化財家屋の修復を専門と
する工務店。船便で届く石だけでなんと14トンもあるそうです。
「窯をつくってそれからどうするのか、それが一番大事なことです。私
が本当に願うのは、パン文化の継承と保存です。その鍵を握っているの
がこのパン窯なの」舟田さんは言います。
捏ね桶やヘラなども現地の木材であつらえたもので、アルプスの村の
伝統のパンを中心に焼くことになるそうですが、「でも、道具やパンを
並べても、それではパンの文化は生きているとは言えないでしょ?焼か
れて、食べられて、それが次世代へ伝えられてこそ本来の意味をもつの
ですから」そこで、カフェもつくって食べ方を伝えていく、というのが
このプロジェクトです。
そしてもうひとつの目的は薪。地球規模で求められる森林の再生です。
「森からの贈り物としてのパン、森と人の絆から生まれるパン、という
価値。パンを通して環境サイクルを考えるきっかけになれば」
この素晴らしいプロジェクトについては、またレポートします。
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講演は、オーストリアのチロルの築窯(ちくよう)職人、
シュタイリンガーさん親子が窯をつくるスライドを観ながら
進められました。
今ではこうした窯の需要もあまりなく、それをつくることができる
職人も少なくなっているそう。
中世の建築の丸天井のように、ぴったり支えあえるように計算されて
切り出された微妙に扇型をしたレンガをひとつずつ積んでいく様子、
最後のひとつをはめるところが印象的でした。
薪の石窯では、本当に香りの良い、皮が固くないパンが焼けます。
試食させていただいたのは、しっとりしていて香りも美味しかった。
大きな窯で、大きな田舎パンを焼いているところを想像しました。
水分量の多いチャバタのような生地をねじって焼いた「根っこパン」
も興味深いです。
素晴らしいパンが焼ける窯ではあるようですが
温度調整や作業性を考えると、扱いはかなり大変そう。
100年持つというこの窯。
これから先の100年、どんなパンが焼かれていくでしょうか。
そこにどんな人々が集い、どんな時間を持つでしょうか。
わたしもいつか行ってみたいと思います。