A small,good thing
父が大動脈瘤の手術を受けた。
父のことは担当医にゆだねていたので
ずっとそばについている母のために
差し入れのお稲荷さんをつくって行った。
(パンじゃなかったけれど)
つくりながら、レイモンド・カーヴァーの
『ささやかだけれど、役にたつこと』を
思い出していた。
「何か召し上がらなくちゃいけませんよ」
とパン屋は言った。
「よかったら、あたしが焼いた温かい
ロールパンを食べて下さい。ちゃんと食べて、
頑張って生きていかなきゃならんのだから。
こんなときには、物を食べることです。
それはささやかなことですが、助けになります」
ICUで目覚めた父は母を見ると最初に
「お昼は食べた?」と聞いた。
さすがわたしの父。
それから彼は職場に何時までに電話するようにと
指示を出した。
執刀してくださった先生の爽やかな笑顔に
ありがとうございました、と頭を下げて
たった11文字で、それ以上何も
言葉が出なかったのだけれど
これ以上ないくらい感謝していた。