素を味わった夜と食道楽の夢
おいしいもの好きの友人が天ぷらを食べに行くというので
仲間にいれてもらった。カウンターに並んで次々に出てくる
海老、そら豆、慈姑(くわい)、ふきのとう、鱚(きす)、
白子、菜の花、穴子、蓮根、白魚、アスパラガス、牡蠣などは
薄衣を纏ってサクっと熱々……締めは天茶、最後に干し芋と柚子。
何もつけないか、塩、すだち、出汁、大根おろしを店主のすすめる
組合せでちょっとつけて、あとは素の味わいを存分に愉しんだ。
「ちょうどよい温度になるよう、出汁にくぐらせて召し上がって
ください」といわれた熱々の白子と、ふわりと揚がった半生の白魚が、
自分ではつくれないものでもありめずらしく、そして素晴らしかった。
こういう味を愉しめる、大人になってよかった。
*
お昼に定食屋さんで銀鱈定食を食べた。
誰も長居をしないので、並ばない程度に満席で活気があった。
9割以上が大人の男性客。お魚を主菜に一汁三菜、質実剛健な
感じが良いのだろう。
日本人だもの。わたしもごはんが大好きです。
でも、こんなとき、ちょっと夢をみることがある。
こういう雰囲気のなかで、おいしいパンが食べられる定食屋さんだって
あっていいはず。
こんなふうに会社のお昼休みに行かれるような個人店で、
皆で肩寄せ合っておいしいパンやスープをしっかり愉しめて
でもそれはファストフードでもファミリーレストランでも
高級フレンチレストランでも小洒落たカフェでもなくて。
そんな定食屋さんに、こんなふうにふらりとお昼を食べに行く夢。
食道楽の夢。