クリームドーナツの好きなひと

この内容はToday's Favoriteかなと思ったけれども

今読んでいる荒川洋治のエッセイ集、とてもいいので

ここで紹介してしまおう。

クリームドーナツという呼び名のパンが好きだ

という出だしで始まる。

駅の脇の「コーヒーとパンの店」に通っているという。

いつも買うので、店の人に「あらあの人また」と

思われないようにほかのパンでカモフラージュする。

ほんとうは3つたいらげたいときに、別のパンも買って

「するべきことはした」と思う。

クリームドーナツはイートインでひとつ、

別のパンをひとつ、そしてしばらくしたら

テイクアウト用の袋からクリームドーナツをもうひとつ

出して、目立たないように、食べるという。

雨の日も犬みたいにびしょ濡れになって通う。

このコーヒーとパンの店は幸せだな、と思う。

50歳を過ぎた。するべきことはした。あとはできることをしたい。

それも、またぼくはこうするなと、あらかじめわかるものがいい。

こんなふうな習慣がひとつあって、光っていれば、

急に変なものがやってこない感じがするのだ

そしてわたしはこの人が好きだと思った。

店の袋に好きな本を入れたり出したりして

「子犬のようによろこぶ」というこの人。

Diary110708

『忘れられる過去』荒川洋治 (みすず書房