厨房の片隅で……ある誕生日のシーン
小春日和のことを、英語でインディアンサマー、
ドイツ語では老婦人の夏と呼ぶということを
教えてくれたのは確か、母でした。
小春日和と呼ぶのには10月はまだ早いけれど、
夏のような光の溢れる今日みたいな日はなんだか
「老婦人の夏」と呼ぶにふさわしい……なんて
考えながら、ネモさんのお店へ。
みごとな厚切りトマトが入ったカプレーゼサンド、
フランス風チュロス、などシンプルな味がおいしい。
そのあと厨房で、パンを捏ねたり、取り出したりする
いろいろの特製品を(ネモにはそういうものがあるのです)
見せてもらっていると、スタッフがひとり、仕事を終えて
帰るところに遭遇したのでした。
「ちょっと待って」とネモさんは言って、冷蔵庫からすばやく小さなケーキを取り出して
彼女の手に乗せて、「お誕生日おめでとう!あなたのために焼きました」と。
厨房の職人さんたちはみんな作業の手をとめて、笑顔で拍手。
わたしも、拍手。
そのとき厨房に、嬉しい空気が満ちていた。
やはり、素敵なお店です。