◎wagashi asobi
今やどこでも何でも買える時代となってしまったかのようですが、
お世話になった方に東京らしいものを贈りたいと思ったときに、
思いついたのが◎wagashi asobi。
昨日は長原にあるそのお店まで出かけたのです。
老舗で20年の修業の後、今に至る和菓子職人、稲葉基大さんが
現在、製造販売されているのは、パンに合う「ドライフルーツの羊羹」
と「ハーブのらくがん」のみ。
お茶事などのために特別な生菓子を作ることがあっても
普段はこの2つ、羊羹は無花果と胡桃と苺の入った1種類です。
もとカフェだったという店舗は、和菓子屋さん然とはしておらず
どちらかといえば、稲葉さんの家にでも遊びに来たような心地に。
窓辺にはお茶碗やグラスが飾られていました。
ふたつ並んだお茶碗は、パリの店に赴任していた時代の想い出の品
だといいます。
***
パリにて。
ある晩、楽しそうな雰囲気に誘われて、とあるパーティにふらりと
立ち寄ろうとした稲葉さんは、招待状がないからと断られてしまうのですが、
そこを食い下がって、中に入れてもらうのです。
アーティストの個展のレセプションだったのでしょうか、そこで
彼は陶芸家のおじいさんから茶碗を買ったそうです。
抹茶の緑が映えそうな、赤い茶碗。
翌日、彼は再び、おじいさんを訪ねます。
その茶碗で、お茶を点てて愉しんでもらおうと思って、
抹茶と自分で作ったお菓子を携えて。
おじいさんは大喜び!
彼はそれからよく、イベントで、知り合いの店先で、
手づくりのお菓子をふるまうようになります。
多くの人に愉しんでもらうことで、自分の道を進んでいく力を
身につけていったのではないでしょうか。
あるとき、小さなお茶会を企画したら、茶碗の用意が2つしかない
というのに70人ものお客さんが集まってしまって、蚤の市で
急遽調達したというのが、美しい色とりどりのグラスです。
それにしても足りなかった、と思い出し笑いする、稲葉さん。
さきほどの、ふたつ並んだお茶碗のもうひとつは、
昨年開業したときに、フランスのおじいさんから
お祝いに贈られたものだそうです。
***
わたしは今年になって、記事にしていないふたつの素晴らしい
パン屋さんを訪ねました。
その時のお礼に、稲葉さんのお菓子をようやく贈ることが
できました。
稲葉基大さん
「商店街の外れの、こんな場所で隠れるようにしてひっそり、
やってますけれど」と稲葉さんがぽつりと言ったとき。
「志のあるひとのいるところは、世界の中心になるのです」
思いがけず出てきたその言葉は、わたしが大切に記憶していた
友人の言葉でした。それも、お菓子を贈った先の職人さんを表した
言葉だったから、何かがまるくつながった感覚……!
そんな彼らのように、わたしも、仕事をしていけたらいいなぁ
と思うのです。
きょうは、苺のらくがんのためにお薄を点てましたよ