『茶懐石に学ぶ日日の料理』光と陰影、そして蜜香
先日は『茶懐石に学ぶ日日の料理』の後藤加寿子さんと
写真家の久保田康夫さんのお話を伺いに辻調<新>塾へ。
食のジャーナリストなど、食に関わる仕事人たちの勉強会です。
後藤加寿子さんは、茶道の武者小路千家のお家元の家に生まれ
料理研究家として、日本に、日本料理を残したい、という想いで
活動をされています。
後藤先生のお話を伺って、いろいろな気づきや学びが
ありました。
お濃茶のための懐石料理とお酒のための会席料理が
混同されてひろまっているという事実。
懐石料理は誰のためにつくるか、あらかじめ決まっていて、
そのひとをよろこばせるために、何日もかけて考える料理だという。
懐石料理はなにも、高級料理あるいは京料理を
高級な器にのせて出すものを指すのではないし、
奇をてらう特殊なものではないという。
そのひとのことを考えて、おいしくてからだによい季節のものを、
手をかけ心をこめてつくる、ということにおいて、懐石料理は
家庭のお母さんが子供のためにつくる料理に一番近い、という。
そこでわたしは、はっとしたことがありました。
わたしも茶道の稽古を始めて数年になります。
初釜や炉開きなど茶事を経験するようになったあるとき、
先生の作られたお懐石の、お煮しめのひとつをいただいて、
ああ、こういう味を母が亡くなって、初めて口にした、と
思ったのでした。
外食では出合えなかった、自分で作っても、出せなかった
母の味。そういうことだったのか、と腑に落ちたのでした。
母がそして先生が、わたしに食べさせようと思って
丁寧に作ってくださったことの大きさに、あらためて
気がついて、感謝し、自分のことを省みたのでした。
*
それから、『茶懐石に学ぶ日日の料理』で四季折々の
光をとらえた写真家、久保田康夫さんのお話。
料理写真でタブーとされていた陰影に着目し、
光を操りながら、お茶室の光の色と陰影を再現されたのです。
薄桃色がかったおぼろげな春の光、
透明だけれどエッジが立つ夏の光、
アンバーがかった寂しくて温かい秋の光、
静かでやわらかい冬の光。
四季の色のあるこの国では、影にもさまざまなトーンが
あることでしょう。陰翳礼讃。
そうしたことを計算に入れて、美しい瞬間を永久保存する
写真家の仕事にも魅せられます。
交流会は代官山の「蜜香」(ミーシャン)のデリバリー。
鴨と葱のサンドイッチや、葱を巻き込んだ小さな堅焼きパン
葱油餅にマッシュポテトと海老、アスパラを乗せたカナッペなど、
美しいフィンガーフードが並びました。
香港式スイーツのカフェということで、パン料理は普段は
ないですが、デリバリーでは要望に応じてくださるようです。
小さいカフェだけれど、センスのある本格派の料理人の味です。