MOFチーズ職人、エティエンヌ・ボワシーさんのセミナー
日本製粉東部技術センターにおいて行われたチーズセミナーに出席しました。
講師はポールボキューズのもとでメートルドテルを務めた後、MOFを取得、エルベ・モンスとリヨンにお店を構えるチーズ職人、エティエンヌ・ボワシーさん。
国内のチーズ消費量は20年前に比べて1.8倍になっているそうです(なぜかパンは横ばいだそうですが)。
セミナーの内容はチーズの基礎知識とコンテ3種類のテイスティング。
まず、生産者の異なる3種類、次に熟成期間の異なる3種類とパンの相性を体験しました。
標高、土壌、降水量、気温、植物によって、牛の食べるものが変わり、同じコンテでもわずかに違う風味を持つのです。その香りや味わいを表す言葉に目を見張りました。たとえばこんな分類になっています。
■LACTIQUE(乳製品)
フレッシュミルク、加熱したミルク、鍋底にこびりついたミルク、ヨーグルト、溶けたバターなど
■TORREFIE(焦げ)
ブリオッシュ、ベシャメルソース、柔らかいキャラメル、トースト、ブラックチョコレート、タバコなど
■FRUITE(果物)
アプリコット、レモン、生のヘーゼルナッツ、クルミ、ハチミツ、花など
■VEGETAL(野菜)
干し草、藁、青臭い、煮えたジャガイモ、玉ねぎ、セロリ、シャンピニオン、土など
■ANIMAL(動物)
動物臭、濡れた羊毛、皮、肉のブイヨンなど
■EPICE(スパイス)
スパイシー、ミント、胡椒、ナツメグ、バニラなど
■AUTRES(その他)
湿ったダンボール、石鹸、ゴム、アンモニアなど(あってはならない香り)
一般的なコンテは干し草や草原の香りに焙煎したような香ばしさやバターの香り。
バターのような味わいの中に、ナッティーな木の実の香ばしさと甘味の余韻が残る。
との説明があります。
コンテが好きで、言葉にとても影響を受けやすいわたしは、頭の中が香りと味の
表現でいっぱいになりました。面白い、これは遊びのようです。
コンテはフランスで一番売れているチーズだそうです。
熟成期間6ヶ月、18ヶ月、24ヶ月では、ボワシーさんは18ヶ月が「コンテが持ちあわせている香りがすべて発揮されており、一番味わいがあっておいしい」と説明、6ヶ月は「ミルキーで優しい味わい、朝食用に」。24ヶ月は「香りが少なくなって余韻があり、かすかな苦みも出て濃い味わい。特別なときに」。
わたしはこういう食べ比べは何度かしたことがありますが、いつもアミノ酸がジャリッとするような熟成期間が長いものほどおいしいと思っていました。が、今回は一番フレッシュなのが甘味があってぽくぽくしていて気にいりました。
合わせるパンとして、3種類のバゲットが用意されていました。日本製粉のジェニーで、老麺を用いてディレクト法で短時間発酵させたバゲットと、フランス小麦メルベイユの低温長時間発酵のバゲットと、メルベイユに石臼挽き粉グリストミルを40%加えたバゲット。わたしの好みはいつも後者のほうですが、今回はジェニーに感動。
パリっとして薄いクラストとあっさりとした生地が絶品のバゲットでした。これは焼きたてが命、儚くもすぐに失われてしまう美味に違いないけれど、すぐに食べきる時にはこんな軽やかなバゲットもいいなぁと思いました。
食べ合わせとしては、パンが重くなるほどにチーズも熟成したもの、と考えがちですが、ボワシーさんは類似ばかりではなく、コントラストの合わせ方も教えてくれました。つまり優しい味わいのものが、癖のあるものを和らげてくれるという考え方です。パンとチーズとのマリアージュを考える上でこのことは、わたしには新鮮でした。
他に、チーズにあわせるsomething goodは、こんなポイントで選ぶとよいようです。
目で見て心地よい色合いを添える
同じ地方の産物を添える
この味にこの味を足すと美味しいというものを添える
色調でコーディネートする
香りを合わせる(たとえばパイナップルの香りのボーフォールにパイナップルを添えるとか、パンにパイナップルジャムを塗って添えるとか)
正反対のものを合わせる(癖のつよいマンステールにアルザスのゲベルツトラミネールのフルーティな甘さ、あるいは塩分のきついロックフフォールに生のジューシーな洋梨の味とか)
そしてビールで洗っているウォッシュチーズにビール、あるいはセレアルのパンを添える
山羊にヘーゼルナッツ、羊にアーモンド、なんて決まりもあるようです。
聞いていくうちに本当に遊びのようで楽しくなってきます。
セミナーの後はコンテ6種とブルーチーズ(フルムダンベール、ペルシレードボジョレー)、ラクレットとパンとワインの懇親会がありました。
わたしは、モンスのチーズとは、確かシニフィアンシニフィエで出合ったのが、最初だったと思います。どれもこれも美味しい。ブルーチーズだって慣れない人には青カビということが敬遠されがちだけれど、これを初めて食べたなら、ブルーチーズの美味しさを知ることでしょう。
パンとチーズのおいしさを再発見する、楽しいセミナーでした。