サンドイッチの発想と組み立て 世界の定番サンドイッチとその応用
友人のユイさんがサンドイッチの本を出した。
ユイさんに初めて会ったのは、8年ほど前、東京と大阪で開かれた
サンドイッチセミナーで、西川功晃さんのデモンストレーションの前座として
講演をさせていただいた時で、彼女はシェフの手伝いで来ていた。
それから、おいしいサンドイッチのある所で何度も、彼女の仕事をみてきた。
取材先のパン屋さんでは彼女が薦めたsomething goodが挟まれた、おいしい
サンドイッチに何度となく出合った。
わたしがパンよりも、(ユイさんに教えてもらった)素材のプロフィールを
知っているので、パン屋さんに驚かれることも少なくなかった。
日本のパン業界の淵、みたいなところがあるとすればそこに腰掛けて
わたしとユイさんはよく、何時間も話をした。
どこのパンが美味しいということではなくて、パン屋さんが商品開発の現場で
抱く疑問やぶつかる壁について、共感することが多かった。
最初にベーカリーやカフェのサンドイッチについて、彼女は書いている。
そこでは「目新しいもの」もしくは「コストも手間もかからないもの」が求められることが多くありました。でも私自身が食べたかったのは「定番の組み合わせ」や「上質な素材を使い、丁寧に作られたもの」でした。
深く深く共感する。
ユイさんのつくるサンドイッチはセンスがあって、おいしい。
とっても大きいとか、何かが普通よりたっぷり挟まっているとか、
身体にいいとか、○○産の○○使用とかではなくて、あたりまえで、
ごまかしがない、安心な味がする。そして、美しい。
そのユイさんの、サンドイッチの教則本のような本。
日本人は昔から手先が器用なので外国の物をなんでも、アレンジしてしまうのが
得意だけれど、文化的側面も知ったうえで作ったらもっと存続可能な、よい創造が
できるかもしれない。だから世界のサンドイッチの文化的背景も調べてある。
そして、これはマスコミの功罪もあるけれど、目新しいメニューに次から次へと
トライするのではなくて、世界中で脈々と作り続けられてきた定番サンドイッチに
じっくり向き合ってみること。それがこの本では可能になる。
プロにもアマチュアにも。
一通りの世界の定番は勉強になるし、ユイさんのセンスでつくられた
今風のサンドイッチはどれもトライしてみたいものばかり、240ページの充実の内容だ。
そして最後に。ユイさんは楽しんで、と書いている。
これはとても大切なことだと思う。
昔、有名なフレンチのレストランにひとりで出かけたユイさんが
シェフに教えてもらったという言葉を、当時、行き詰っていたわたしに
教えてくれたことを思い出す。あとになって、論語の言葉だと知った。
これを知る者はこれを好む者に如かず
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず
如(し)かず、はかなわない、ということ。楽しむ人が一番。
サンドイッチもそうだなぁと思う。
パンに関わる仕事をする人ならば、もう一度きちんと知って
とことん、楽しみたいですね。それはきっと、周りの人たちを
ゆたかに、幸せにすると思う。もちろん自分のことも。
やったねぇ。ユイちゃん。
でも、わたしたちの戦いは続くね。頑張ろうね。
この本で、サンドイッチの楽しみを知らなかった人たちが、
真のサンドイッチづくりに目覚めて、日本のサンドイッチの質が
ちょっとばかりグレードアップすることを、ひそかに楽しみにしている。
『サンドイッチの発想と組み立て』 ナガタユイ(誠文堂新光社)