悲しみのあとで

このパンには思い出の味がある、

港のどこより廃れて混みあった辺りの、

貧しい居酒屋で食べるこのパンには。

ウンベルト・サバ須賀敦子訳)「悲しみのあとで」の冒頭。

イベントをきっかけに、パンが出てくる詩に出合う機会が多くなった。

おいしくなさそうなそのパンを頭の中で映像化したら

映画『ル・アーヴルの靴みがき』に出てきた素っ気ないバゲット

思い出した。

おいしくなさそうなんだけれど、いい感じがしたのはなぜだったんだろう。

実際の自分の人生の記憶の中のパンで思い出の味、というと、

どこもかしこも、すでにないお店ばかり思い浮かぶ。

ああこのパン、と、思い出すほど続く店が、あってほしいと思う。