悲しみのあとで
このパンには思い出の味がある、港のどこより廃れて混みあった辺りの、
貧しい居酒屋で食べるこのパンには。
イベントをきっかけに、パンが出てくる詩に出合う機会が多くなった。
おいしくなさそうなそのパンを頭の中で映像化したら
映画『ル・アーヴルの靴みがき』に出てきた素っ気ないバゲットを
思い出した。
おいしくなさそうなんだけれど、いい感じがしたのはなぜだったんだろう。
実際の自分の人生の記憶の中のパンで思い出の味、というと、
どこもかしこも、すでにないお店ばかり思い浮かぶ。
ああこのパン、と、思い出すほど続く店が、あってほしいと思う。