Year's end sweets
今年のクリスマスはsens et sens(サンス エ サンス)のシュトレンでカウントダウンした。
とても丁寧につくられたシュトレンだった。
自家製レーズン酵母、北海道産の小麦。無花果や杏の瑞々しさがよかった。
スライスして皿にのせると、年末の慌ただしさがすっと鎮まる心地がした。
sens et sensのあの、シェーカースタイルを想わせるようなカフェ空間が思いだされた。
酵母やドライフルーツのもととなった果実の経てきた時間が、北海道の小麦粉に携わって来たひとたちの想いが、菅井さんの丁寧な仕事でおいしくまとめられている、と感想を書きとめた。
菅井さんがくださったメッセージには、麦や酵母をもちいたパンの仕事で自分は生かさせていただいている。自らが育てた酵母を窯で死なせ、己は生き残る、ならば、命をかけてその行為に全力をつくしたいと思う、というようなことが書かれてあった。
わたしが感じた彼の丁寧な仕事は、麦や酵母の命を貴ぶその考え方に寄り添っていたのだ。
わたしは真剣に仕事しているか。静かに考えた。
ある日。西荻窪の364(365ではなくて、サンロクヨン)で開催されている「年末年始のご馳走貯蔵庫展」へ行った。
四ツ谷でパン教室をされている茂木恵実子さんがクグロフを出品されていたのを買いに。彼女のことを何故かわたしは「モギエミコ」とフルネームで呼んでしまうが、その失礼さを彼女にお許しいただいている。モギエミコは製パンセミナーで見かけるといつも前の席に座り、積極的に挙手してするどい質問をなげかける、情熱のつくり手だ。
クグロフはブリオッシュ生地にフルーツとリキュールのシロップ、粉砂糖でメリハリの効いた甘さになっている。プレーンな生地だけで焼くと、フォアグラとぴったりなのだと言う。
ふわりとした赤いリボンを解いて包みをはずす時、裏にバラが隠れていた。Merci、の文字の上下はどこかロシア語のような外国の文字。技術にプラスして、かわいい女性らしさを感じるクグロフだった。
クグロフは29日までの会期中、364で購入できる。
そしてクリスマスも終わり、町が一気に「和」に向かう頃に、チクテベーカリーの北村さんこと、ちくちゃんから、シュトレンが届く。
お店の子たちにこれをクリスマスプレゼントにしていて、年末にかけてゆっくり食べるのがお店のみんなの楽しみなのだそうだ。なんて温かい。
実はつい最近、今から12年ほど前、まだわたしがAll Aboutパンで記事を書き始めたばかりの頃、下北沢にあったチクテカフェを取材に訪れた時のことを、思い出すことがあった。
わたしがひとり、カフェに入って行くと先に取材が入っていた。マガジンハウスの雑誌だった。最近マガジンハウスで仕事をいただいたのだが、きっかけがその時ご挨拶した編集者の方の推薦ということだった。12年前にちょっとお会いしただけだったのに、ありがたいことだ。
書きたい、書きたいと言いながらこの12年間を過ごすなかで、本を2冊書いて、ウェブでAll Aboutパンのガイドの仕事を続け、企業の情報誌でインタビューや取材記事を書かせていただいている。でもまだ書きたい、書きたい、と思っている。
昔、自宅で「サトウさん」と名付けた酵母を大事に育てていたちくちゃんは、チクテカフェへの卸しをしながら自らの店を開き、いまはご家族やスタッフも増えて、今年はカフェつきの店舗を南大沢に開いた。工房が変わり窯が変わった。ひとつひとつ丁寧な仕事は変わらないが、昔はバリっとしてどこかかたくななところもあったそのパンが、やさしい表情を見せ始め、ゆっくりと世界へ向かって開いていくような感じがした。ゆたかなバリエーションを持ちながらそのどれもがベーシックで食べたいパンばかりの陳列台をみながらそう思った。その時、新しいチクテベーカリーでサンドイッチを食べながら、気候のせいもあったかもしれないけれど、わたしはあの気持ちいいバークレーのカフェファニーと同じ種類の空気を感じていた。本当に素敵だ。わたしは、いつもちくちゃんの仕事を楽しみにしている。これからも。
職人さんの仕事や生きかたを知って、自分の仕事や生きかたをかえり見るのは、わたしの癖だ。職人さんを感じようとするとそうなる。そして、心の中で感嘆の声をあげたり、背筋をしゃんとして正座し、黙想したりするのだった。
さて、クリスマスの後のシュトレン。新しい年にかけて、楽しみにいただきます。