ドンク仁瓶利夫と考えるBon Painへの道

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この本が日本の次の世代のパン職人にとって、どれほど力になることかと思う。

完成まで2年半。「あずかる原稿にはたくさんの怒りの爆発がありました。それだけの想いがあって書いています」。編集者の松成容子さんは言う。

ドンクの仁瓶利夫さんがこの夏に出版された『Bon Painへの道』。本の中にも出てくるベーカリーフォーラムに出席し、仁瓶さんのお話を伺ってきた。

Painすなわち、小麦粉と酵母と水と塩だけでできたパン。

日本語ではそれは一般的に、「フランスパン」と呼ばれている。

最近では「フランスパン」は日本の食文化に浸透したぶん「バゲット」「カンパーニュ」「リュスティック」などと分けて呼ばれるようになってきたし、パン職人も、さまざまな素材や製法を選択できる時代になってきた。

仁瓶さんがパン職人になった当時と比べたら、Painに関してどれほどの資料が揃い、技術を教えてくれる先輩が揃っていることか。

「あの時、こういう本があったなら」。

この本は、2007年にセミリタイアされて、時間ができた仁瓶さんが、Painに関して書き残しておきたいと思ったことが綴られている。

カルヴェル教授を始め、フランスから来られる職人さんに技術指導を受けるほか、本を頼りに手探りでパンを焼いた時代、その本にも問題があったという。とくに、専門用語を無理に和訳した昔の翻訳本からはイメージの変換ができず、結果的に間違って伝わることも少なくなかった。原書を読めば宝が埋まっているはずなのにというもどかしさ。仁瓶さんはその時わからなかった謎を数十年して、調べあげている。日本に間違ってひろまってしまったことがある。まだまだ発見がある。

フランスパンの近代から現代の歴史は、仁瓶さんが個人的に調べてきたことをまとめている。彼が学び、疑問に思い、調べ、納得した過程の道標を、読むひとは辿ってみることができる。間違いがあったら知らせてほしい、と仁瓶さんは言う。実用書に書かれた嘘や間違いは許せないのだ。

製造編にはドンクの職人たちに頼まれて、書き残してほしいといわれたこと、リュスティックやロデヴについて写真つきで詳説されている。仁瓶さんのリュスティックやロデヴは、わたしは今回含め何度か、いただく機会があったけれど、これが日々、食べられたら、買うことができたらどんなにいいだろう、と思う夢のようなおいしさだ。

小麦粉と水と酵母と塩、たったそれだけで、どうしてこんなにもさまざまな色の、さまざまな香りの、さまざまな味の、さまざまな食感の、さまざまなかたちのパンができるのだろう。

これからパンの製法も、名称のように、時代とともに少しずつ、変わっていくかもしれない。

でも、次世代のパン職人さんたちは、これを引き継いで、よりよくして、きっと、次の時代に渡してほしいと思う。

もはや本質的に「フランスパン」ではない、すでに日本に根付き始めた、日本のパン食文化のために。

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