仁瓶さんのリュスティック
インタビューを受けたときに、すきなパンは、と聞かれたので、
職人の人生が透けてみえるようなパン、と答えたあと、
ドンクですきなパンは、と聞かれたので、
仁瓶さんの焼いたロデヴやリュスティック、と答えた。
かぐや姫の願い事か。
なかなかたべられないものだ。
希少だから情報誌なら却下されてしまうにちがいない回答だ。
しかし、今回はよくある「オススメコメント」とは異なり、
わたし個人をクローズアップするインタビューだったので
ライターさんがうまく記事にしてくださった。
インタビューはいつもする立場であって、されることはすくない。
得意ではないが、逆の立場というのは勉強になるとわかった。
話したことと違う文章になっていると、衝撃を受ける。
自分もそんな思いを相手にさせてはいまいか。
いそいでなおしながら、がっかりしている自分がいる。
伝える仕事をする者として、伝えるの力がなかったのだ
という事実を、つきつけられることになるから。
そうした経験も、有り難いことだとおもう。
記事を読まれた仁瓶さんが、奇跡のように連絡をくださった。
あまりたべる機会ないでしょ、こんど焼くから、都合がついたら
取りにきて、と言ってくださったので、飛んで行った。
リュスティックは、記憶の通り、素晴らしい味がした。
それは細長く焼いたものだった。クラストは薄くパリッと焼けて
水分をたっぷり湛えた半透明の気泡を持つクラムを包んでいた。
もっちりとしていながら、どこまでも軽やかで、口の中で甘く、
やがて儚く溶けた。
1954年にレイモン・カルヴェル教授が伝えたというバゲットは
『Bon Painへの道』でも紹介されている。
それもまた、冷凍保存する間もなく、夢のように消えてしまった。
すごくトクベツな素材を使っているわけではないのに、トクベツなパン。
それは原材料の産地や銘柄、配合や製法だけによるものではないだろう。
職人の技によってトクベツになるのだ。
まえにリュスティックをたべたのは、出版記念の集まりのときだった。
ドンク仁瓶利夫と考えるBon Painへの道: Bread Journal
今回インタビューしていただいた記事