地元パン手帖

f:id:mihokoshimizu:20160516154128j:plain

甲斐みのりさんの『地元パン手帖』(グラフィック社)を拝読した。
北海道から沖縄まで、みのりさんが10年ほどかけて「採集」した地域のパンの図鑑だ。

 

この10数年のわたしは、スーパーなどで販売されている袋入りのパンを買う機会が減っていたので、そのビジュアルに子供の頃のノスタルジックな昭和を見つけて、懐かしい想いにとらわれた。


しかしこれはパンの懐古図鑑ではない。当時の素朴なキャラクターやロゴが時代を超えて現役で日本各地に存在しているのだ。それは愛され続けているしるしだ。

 

東京では(もちろん地方でもきっと)シーズンや行事ごとに目新しいパンを、季節限定のパンを、と各社、各店こぞって商品開発会議が開かれるが、こうしてずっと昔懐かしい姿のまま、愛され続けるパンもあるのだな。

で、『地元パン手帖』のなかで、一番食べてみたいパンは愛知県の「こらくや」のシベリヤ。カステラの間に挟まれているのは羊羹ではなくて、泡雪だ。道の駅「藤川宿」で買えるそう。

 

わたしは食べものや町について、みのりさんが書く文章が好きだ。
みのりさんが書かれると、知っているはずのもの、自分が普段なんとなく見過ごしていたものが、異なった顔を、風景をみせる。それらが実は宝もののように素敵なものだったということに気づかせてもらい、新鮮なおどろきに包まれる。
最近は杉並区で配布されていた『物語が生まれた場所』(中央線あるあるプロジェクト実行委員会)でもそんな素敵な体験をした。

 

みのりさんは文章を書かれる時、「なにかを否定する時間を惜しみ、好きなことをもっと深く追いかけていたい」という気持ちでいるという。その姿勢に、わたしは心から共感している。