74歳のペリカンはパンを売る。

10月にユーロスペース他にて全国順次公開予定の映画『74歳のペリカンはパンを売る』の試写を観てきました。

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浅草の人気店「パンのペリカン」のドキュメンタリー映画です。

74歳とは1942年、初代の渡辺武雄さんが浅草でパン屋さんを創業した年から数えたこのお店の年のこと。

 

80分の映画の中には、四代目の渡辺陸さんを中心に、食パンとロールパンだけを作ると決めた二代目多夫さんの志を引き継いだ人々と、ペリカンを愛するお客さんたちの自然な言葉が収録されています。

 

店の前で、ペリカンのパンの味について尋ねられた常連の男性が、空気だったか水だったか、普段はとくに意識しないけれど大切なものにたとえて、普通だよ、でも必ずまた、食べたくなるんだよね、というようなことを言った。


これは私も、多夫さんや、多夫さんのご家族から直接聞いたことがある、この店が大切にしていること、そのものでした。

 

ペリカンのパンを食べたくなるとか、ペリカンという店への理解が深まるとかいう内容ならば私も、ウェブサイトや本やテレビ番組でご紹介してきたことでしたが、映画は、それに加えてなにか、仕事について考えるきっかけをつくってくれたように思いました。
というか、そこがとても重要なポイントだった気がする。

 

なかでも、40年以上もペリカンの味を守り続けているベテランの名木さんの言葉が響きました。

 

職人であるよりもまず、人間なのだから、という仕事の仕方。
自分はどんなふうに自分の仕事と向き合っているか。
この映画を観たひとは、考えさせられるに違いない。

 

テレビ東京の番組を観たことがこの映画製作へのきっかけとなったというプロデューサーの石原弘之さんと監督の内田俊太郎さんは陸さんと同世代。
若さと、温かさを感じる映画でした。

 

私は二代目の多夫さん、三代目の猛さん、四代目の陸さん、そしてご家族や名木さんはじめとする従業員の皆さまに、お客としてもジャーナリストとしてもお世話になってきました。

そして今でも浅草に行くたびに、多夫さんから聞いた東京大空襲の話を思い出します。浅草は焼け野原になり、その後で多夫さんによる、今のペリカンの歴史が幕を開けたのです。

町の人に囲まれて、時代を超えてゆるぎないブランドを守り続けているペリカン。そのペリカンが大切にしていることが詰まった映画です。

 

All Aboutの記事(2009年)

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