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ル・パン・コティディアン アラン・クモンさんのパン時間

昨秋、ル・パン・コティディアンのアラン・クモンさんが来日した。

ル・パン・コティディアン アラン・クモンさんを囲む食事会とインタビュー: Bread Journal

その時にインタビューさせていただいた記事がNKCレーダーに掲載されたので、許可を得て、こちらでも全文ご紹介します。
『わたしの素敵なパン時間』(日清製粉 NKCレーダーにて連載)第37回。

ビールのお供として、カフェ文化の中で育ったタルティーヌ

ル・パン・コティディアン オーナーシェフ

アラン・クモンさん

 

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ル・パン・コティディアンのパン

今、17カ国で220軒以上の店を展開しているので、1年の半分はそれらの店を回るために出張しています。移動時の食事というのは残念ながらわたしにとって好ましくないもので、満足いくようなおいしいパンにもなかなか出合えないのですが、気づかされることがあります。それは、自分たちがいつも普通につくっているパンが、いかに特別なパンであるかということ。その仕事の特別さを再認識するんです。それは自信にもつながっています。
わたしは日々、さまざまな環境下でつくられるル・パン・コティディアンのパンのクオリティをチェックしています。まず、おいしそうな黄金色であること。かたちも重要です。生地を休ませる時間がかたちにかなり関与します。そして味。ルヴァン種による発酵のほどよい酸味を目指しています。断面には大きめの気泡があるべき姿です。ブルーベリージャムを塗ったら気泡の穴から白いソックスの上にジャムが落ちたとかいって、人によっては好まないけれどね。パンの風味が

高いのも特徴で、全粒粉を使うのは、穀物そのものの味をパンで表現したいからです。

最初はテーブルひとつから始まった

料理人をしていた時、どうしても満足できるパンを供給してくれる店がみつからなかったので、ブリュッセルにル・パン・コティディアン1号店を開きました。当時のコンセプトは 「何かおいしものが食べられるベーカリー」です。大都市ではパンを売るだけでは経営が大変なので、ビジネスとして成り立たせることを考えて、パンと料理とのコンビネーションでやっていこうと考えたのです。非常に小さな店で、最初はスタッフひとりに大きなテーブルがひとつだけ。そこに14脚の椅子が並び、メニューもタルティーヌ4種類とサラダ2種類しかありませんでした。最初の2年はパンも2種類しか作っていませんでしたよ。タルティーヌはブリーチーズやグリュ

イエールチーズ、カルパッチョリエットなどシンプルなものにしぼりました。クオリティのいいパンにクオリティのいい食材を合わせるのがわたしたちのやりかたでした。今はベーカリーというよりも、レストランであることがビジネス上、重要な部分を占めてきていると思います。

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ベルギー伝統の食べもの、タルティーヌ

タルティーヌはべルギーの伝統的な食べもののひとつです。フリーマーケットで薄いパンにチーズやラディッシュ、玉ねぎなどをのせて、ビールと共に楽しむのが典型的な日曜の朝の風景です。今や人々の生活形態も変わり、日曜に集まる場所もスーパーマーケットに変わってしまった感もあるのですが、近郊の農家がオーガニックの野菜や自家製チーズを売る、文化的な場所としての小規模マーケットは今、再び脚光を浴びているんですよ。

カフェのタルティーヌ、家庭のタルティーヌ

タルティーヌはサンドイッチと違って中に何が入っているのかが見える、その実直なシンプルさが好きですね。それはまるでスシのようだと思いませんか。炊き方の決まった質のいいご飯の上に、魚など質のいい具をのせて食べる。ナイフやフォークを使わずとも口に運ぶことができるのもスシのようでしょう。
こういう、最初から上に具をのせてサーヴするというのは店のプレゼンテーションで、カフェのスタイルと言えるでしょう。ベルギー人はカフェではビールを楽しむことが多いのですが、ビールばかり飲んでいたら酔っ払ってしまいますから、つまみとしてタルティーヌが進化してきたわけです。一方で家庭でのタルティーヌは、焼いたパンをドンとテーブルの上に置いて、家族は自分で手をの

ばしてそれぞれが好きなものを塗ったりのせたりして食べるんです。でも平日の朝はパンにバターとジャム、チョコレートスプレッド、それにコーヒーのみ。きわめて簡単です。

バターだけのタルティーヌ

わたしの最も好きなタルティーヌも非常にシンプルで、おいしいパンにおいしい有塩バターを塗っただけのものです。小さな農家で昔ながらのやり方でバターをつくっているところがあって、それは工業的につくられたものとは異なり、見た目的には水分が分離していたりしてラフなところもあるけれど、味は信じられないくらいおいしいのです。特に乳牛が外で草や花

を食べた時期のミルクでつくられたものは本当に香りが良くて味が濃いんですね。そういうバターは残念ながらビジネスにはならないのですが、最高の味わいです。

 
アラン・クモン / ル・パン・コティディアン オーナーシェフ

1961年ベルギー生まれ。4歳の時に初めて祖母とアップルパイを焼いたことが始まりで、料理の世界にはファミリービジネスとして常に関わる。16歳より専門学校に学び、料理人になるが、国内で納得のいく品質のパンを仕入れられなかったため自らパン工房を設立。1990年ブリュッセルに「ル・パン・コティディアン」1号店を開店。現在世界17カ国220店舗以上(日本では6店舗)を展開、オーガニック中心のパンと料理が人気を博している。近年ではオーガニックワインの生産も手がけ、世界中でナチュラルな食の提案活動を行う。著書『Le Pain Quotideien Cookbook』(Mitchell Beazley)


食のセンスある方々にパンの愉しみについて伺う『わたしの素敵なパン時間』(日清製粉 NKCレーダーにて連載中)過去のインタビューバックナンバーは一部こちらでも公開しています。

第37回 アラン・クモン ル・パン・コティディアン オーナーシェフ
第36回 舟田詠子  / パン文化史研究者
第35回 笹島保弘 /  イル ギオットーネ オーナーシェフ
第34回 クリストフ・ヴァスール /  デュ・パン・エ・デ・ジデ オーナーシェフ