Today's Toast【4】 セントル・ザ・ベーカリーで朝食を

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セントル・ザ・ベーカリーの朝。ドアをあけて中に入った途端、まるでどこか遠い旅先で、初めての食事をする朝のような、不思議な感覚にとらわれる。未知の風景。目の前に並んでいたのは、北欧のセシリエ・マンツのデザインによる「エッセイ」という詩的な名前のついた大きなテーブル。その上に思い思いのトースターをのせて、相席で、トーストを自分で焼いて愉しむ人々の姿があった。

 

銀座一丁目にある食パン専門店、セントル・ザ・ベーカリーの朝の光景を初めて見た時、そんなふうに書きとめました。ここは「ほんとうにおいしい食パンの専門店をつくりたい」というオーナーの、何年にもわたる計画の末に生まれたお店。焼きたてのパンで作られる、とびきり新鮮で上質なサンドイッチと、テーブルで自分でトーストする食パンが主役メニューです。

 

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お店に行ったら最初にすることは、お土産用のパンを買うこと。そうすれば明日も明後日も、うれしい朝が続き、家族ともシェアできる。このうれしい気持ちは、手間と時間をかけた本物の職人の仕事からくるものです。

 

いいものや、おいしいものといっても、その感覚はきわめて個人的なことです。「早く安く簡単に」が良しとされる時代、その逆を行くような職人仕事はちょっと大げさにプレゼンされてよいのです。銀座で、素敵なテーブルで。知ってもらわなかったら、消えてしまうかもしれない、尊い仕事だから。

 

真の職人仕事に触れられる場を、この世界に創出し続ける人がこのパンの向こう側にいる(これはとても大切な務め)。美しい家具が好きだから美しい家具にこだわって、肉が好きだからサンドイッチのための肉選びも半端ではない人が(これは大切な遊び心)。

 

そんなことをわたしは、セントルのパンを食べる時にいつも、思うのです。

セントル・ザ・ベーカリー

All Aboutベストパン2016

※トーストは家でも食べられるので、私は、ここではサンドイッチを食べます。フルーツサンドが一番好き。これは絶対に家ではつくれない。しかし、ハムサンドもたまごサンドも見た目は普通なれど、一瞬この世界が止まってしまったかと思うほど、そして次の瞬間には大切なひとにどうしてもこれを食べさせたい(食べさせたかった)と思う味なのです。迷う。だから食いしん坊はここへはひとりではなく二人以上で行きましょう。

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