ブーランジェリースドウ 須藤秀男さん「食べて幸せになるもの」

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』47人目のインタビュイーは、ブーランジェリースドウの須藤秀男さんです。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。 

腹を満たすものというよりは、食べて幸せになるもの

須藤秀男さん / ブーランジェリースドウ オーナーシェフ

 

◇厚切りトーストで食感を楽しむ

休みの朝は山型の「世田山食パン」1斤を3枚切りに、厚さでいうと4センチくらいにスライスして、軽くトーストします。薄切りトーストでは特徴が失われてしまうし、焼かないと食感が生きない。厚切りにして焼くのは、食感を大切に考えるからです。中のフワッとした食感を残しつつ、表面だけサクッと焼いて、発酵バターを冷たいままのせます。焼くことで香りもよくなります。このパンの特徴を楽しむなら、断然厚切りがいいんです。

◇おいしさには食感と口どけが影響する

「ハニートースト」という商品はとても人気がありますが、砂糖と蜂蜜とバターを食パンに浸みこませて、コンベクションオーブンで焼くだけなんですよ。基本的にこの材料を合わせて熱を入れれば、キャラメルができるんです。
ラスクもバターと甜菜糖を塗って焼いて、表面に透明できれいな飴をつくります。うちのラスクは分厚いので、外はカリッと中は柔らかく楽しめる。噛むとラスクバターがじわっと浸み出します。これも食感。
おいしさには食感と口どけが重要なポイントなんです。バターやオリーブオイル、クレームパティシエール、あるいはマッシュポテトなどを塗ることで、パンの乾燥を防ぐことができ、口どけがよくなります。

◇フォカッチャが好き

好きなパンはフォカッチャ。プレーンなのが好きですね。エキストラヴァージンオリーブオイルをたっぷりつけて、岩塩かゲランドの塩をちょっと振って食べるのが、一番好きな食べかたです。フォカッチャは万能なんですよ。カレーパンにしても、チョコを包んでもおいしい生地です。
パンは大きく焼いた方がおいしいから、フォカッチャも大きく焼いて切り分けます。小さくかわいいのは買いやすいけれど、皮を食べている感じになるし、乾燥したり劣化したりも早い。食べるときに切って、リベイクして食べてもらうとおいしいです。

◇まずは視覚で味わう、スドウスタイル

目で楽しめるということも大事です。日本人はとくに、まず視覚で味わうと思うんですよ。フルーツや野菜を盛ったデニッシュやフォカッチャは、タルトのようにナイフとフォークで食べてもらえたらなぁと考えています。
立体感のあるパンは、パン屋があまりやっていない、自分らしいスタイルと思ってきましたが、最近ようやく「スドウっぽい」と言ってもらえるようになりました。誰がつくったのかわからない感じのパンは、あんまりおもしろくないなぁとぼくは思うんですよ。

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菓子屋のように冷蔵ケースを使うことができるなら、もっといろいろなものがつくれるけれど、常温のしばりのなかでも、いかにパン屋らしさを残しつつ表現するかということに挑戦しています。パン屋には「ライブ感」という良いところもありますからね。試作は発売と同時ですよ。毎日素材の状態が異なるから大変です。仕上げの時間も限られます。おいしく、崩れにくく、格好よく出したい、と思うから毎回、頭を使います。

◇普通においしい日々のパン

旬のフルーツをたくさん盛って、原価も50%くらいかけてつくりこんでいるデニッシュはどうしても高価になりますが、毎日食べてもらいたいロールパンなどは、100円台です。バターロールに卵を塗らないのは、皮みたいな食感になってしまうから。それよりも、ココアや粉を振って、クープの入れ方などで表情をつくったほうがおいしいし、きれいだし、楽しいです。
手粉は米粉日清製粉の「みのり」)と「カメリア」を1対1にしています。「みのり」にはべたつきを抑える効果と、日本人の好きな米の香り、甘味があります。料理人がうちのバゲットを食べると、「なんだかちょっとご飯っぽい香り」って言うんですよ。


 ぼくにとって食というのは、腹を満たすものというよりは、食べて幸せになるものという想いがあるので、食卓で笑顔が生まれるようなものづくりを心がけています。かつては技術を優先し、特殊ジャンルで細かいマニアックな商品づくりを究めていましたが、自分の店を始めてからは、子供からお年寄りまで、普通においしいと思ってもらえるものをつくりたいと思っています。

 

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須藤秀男 / ブーランジェリースドウ オーナーシェフ
横浜市出身。エコール辻東京卒。「メゾン・ド・プティ・フール」、「タイユバン・ロブション」、「パティスリー・ペルティエ」、「マリアージュドゥファリーヌ」などを経て、2009年、世田谷・松陰神社前で開業。キリクリームチーズコンクール、ガレット・デ・ロワコンテストなどで受賞歴多数。

(NKC Radar Vol.80より転載)

 

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