一からのパン作り

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 パン屋さんの教科書として26刷も増刷されている『新しい製パン基礎知識 改訂版』(パンニュース社)の著者、竹谷光司さんが新しい本を出版されました。

 

以前から『新しい製パン基礎知識』が難しくて理解できないという若手技術者の声があり、また、家庭製パンの先生方からは「より理論的に学びたい」という声もあったそうで、それが今回の出版の背景にあります。

よって、この本は家庭製パンをされる方、学生からパン職人歴の浅い方を対象に、10種の生地と35のパンのつくり方がやさしく、オールカラーで紹介されています。

 

大きな特徴のひとつは、ポリ袋を使って仕込むこと。小麦粉と水をポリ袋の中で混ぜ合わせます。これは一般社団法人ポリパンスマイル協会が普及させている、ミキシングの方法です。そして手捏ねで生地をつくります。最終的にはパン屋さんで売っているようなパンがつくれるようになるかも。

 

基礎的な理論をわかっていたら、自分好みに、家族やお客さん好みに、いくらでもバリエーションをつけていかれると思います。そうしたパンづくりは、その人のセンスによって、無限の可能性を持つはずです。

 

これからパンをつくられる方に、おすすめです。

ニコパン、グルテンフリー。米粉パンに再び注目。

昔、米粉のパンが話題になり始めた頃、いくつか取材を受けましたが、あまりいいことを言えなかった記憶があります。その頃食べた米粉100%のパンは、なんというか、いまひとつだったし、米粉ライ麦粉のような感覚で何割かブレンドするだけならば、それはパンのバリエーションとして、なかなかおもしろい、おいしいものになる可能性があったけれども、米粉100%のパンは、「パンとしてどうなのか?」というのがこれまでの私の感覚でした。米粉のパンと言っても、小麦のグルテンをわざわざ添加してパンにしたものもあったようです。グルテン不耐症の人の食養生としての米粉パンであれば、それはNGですね。

 

米の消費量を上げる目的であれば、何もパンにしなくとも、ご飯やお菓子で食べたらいいのにな、と思っていました(「パンがなければお菓子をお食べ」みたいに無知、あるいは意地悪に聞こえないといいけれど)。それが一番おいしいもの(わたしはお米のご飯が大好きです)!

 

グルテン不耐症については、日本であまり聞かなかったために、私はこれまであまり注目してこなかったのですが、最近は、ニューヨークやパリで仕事をする友人たちと話していると話題になることも多かったのです。そのことについてはまたあらためて書く機会もあると思いますが、このブログでは2年前にナディア・サミュさんのことを書いています。

そしてこの4月、学生時代の先輩が関わるグルテンフリーのお店がオープンして、お知らせをいただき、あらためてグルテンフリーのパンについて考える機会に恵まれました。

ニ子玉川の高島屋のすぐそばにできたグルテンフリーカフェ「タマクーヘン」です。

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運営はさまざまな飲食店を手掛ける株式会社クルヴェル・キャンの小田寿夫さん。お客さまの声を聞くうちに、グルテンフリーの食の需要を肌で感じてきた人です。

 

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小田さんは数年前から米粉バウムクーヘンの開発に取り組み、国産の有機玄米全粒粉(JAS認定)を使用した「タマクーヘン」がこのカフェの看板商品となっています。

 

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Tama Kuchen | タマクーヘン

 

カフェの、もうひとつの看板商品が「ニコパン」。米粉100%のパンです。小麦粉、卵等を使用せず、国産米粉を何種類かブレンドしています。酵母は白神こだま酵母、油脂は米油、砂糖はきび砂糖を用いています。

 

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吸水性の高い米粉により、パンはしっとりしています。普通の食パンに比べて、ヒキ(ムギューッという伸び感)には欠けるのですが、それでも、ちぎった時の感覚が、今まで体験した米粉100%のパンの中で一番小麦粉のパンに近く感じたかも。パティシエのつくるリッチな食パンのような。ほのかな甘さとしっとり感は日本人好みだと思います。米粉のパンも進化しているんですね。

 

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食べかたとしては、トーストがおすすめです。カフェではこのパンのトーストメニュー、スープなどと一緒に楽しめる軽食メニューがあります。バリエーションとして、レーズンやチーズ、オーガニックのチョコレート入りもあります。

 

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米粉パンのブームが再び、訪れているようです。

 

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この6月には大手製パン会社も動き出します。乳幼児のアレルギー発症率や訪日外国人の増加を踏まえ、第一屋製パンでは国産米粉100%、グルテンフリーのパンの新ブランドFAHAN(ふぁはん)がスタート。

 また、株式会社中九州クボタの子会社である、株式会社熊本玄米研究所と株式会社トレードマークの合弁会社「玄米玄氣堂株式会社」による玄米パスタや玄米パンを中心にしたレストラン「GENMAIGENKIDO」が松濤にオープンする予定です。

米粉のパン、またしばらく注目していきたいと思います。

 

ブーランジェリースドウ 須藤秀男さん「食べて幸せになるもの」

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』47人目のインタビュイーは、ブーランジェリースドウの須藤秀男さんです。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。 

腹を満たすものというよりは、食べて幸せになるもの

須藤秀男さん / ブーランジェリースドウ オーナーシェフ

 

◇厚切りトーストで食感を楽しむ

休みの朝は山型の「世田山食パン」1斤を3枚切りに、厚さでいうと4センチくらいにスライスして、軽くトーストします。薄切りトーストでは特徴が失われてしまうし、焼かないと食感が生きない。厚切りにして焼くのは、食感を大切に考えるからです。中のフワッとした食感を残しつつ、表面だけサクッと焼いて、発酵バターを冷たいままのせます。焼くことで香りもよくなります。このパンの特徴を楽しむなら、断然厚切りがいいんです。

◇おいしさには食感と口どけが影響する

「ハニートースト」という商品はとても人気がありますが、砂糖と蜂蜜とバターを食パンに浸みこませて、コンベクションオーブンで焼くだけなんですよ。基本的にこの材料を合わせて熱を入れれば、キャラメルができるんです。
ラスクもバターと甜菜糖を塗って焼いて、表面に透明できれいな飴をつくります。うちのラスクは分厚いので、外はカリッと中は柔らかく楽しめる。噛むとラスクバターがじわっと浸み出します。これも食感。
おいしさには食感と口どけが重要なポイントなんです。バターやオリーブオイル、クレームパティシエール、あるいはマッシュポテトなどを塗ることで、パンの乾燥を防ぐことができ、口どけがよくなります。

◇フォカッチャが好き

好きなパンはフォカッチャ。プレーンなのが好きですね。エキストラヴァージンオリーブオイルをたっぷりつけて、岩塩かゲランドの塩をちょっと振って食べるのが、一番好きな食べかたです。フォカッチャは万能なんですよ。カレーパンにしても、チョコを包んでもおいしい生地です。
パンは大きく焼いた方がおいしいから、フォカッチャも大きく焼いて切り分けます。小さくかわいいのは買いやすいけれど、皮を食べている感じになるし、乾燥したり劣化したりも早い。食べるときに切って、リベイクして食べてもらうとおいしいです。

◇まずは視覚で味わう、スドウスタイル

目で楽しめるということも大事です。日本人はとくに、まず視覚で味わうと思うんですよ。フルーツや野菜を盛ったデニッシュやフォカッチャは、タルトのようにナイフとフォークで食べてもらえたらなぁと考えています。
立体感のあるパンは、パン屋があまりやっていない、自分らしいスタイルと思ってきましたが、最近ようやく「スドウっぽい」と言ってもらえるようになりました。誰がつくったのかわからない感じのパンは、あんまりおもしろくないなぁとぼくは思うんですよ。

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菓子屋のように冷蔵ケースを使うことができるなら、もっといろいろなものがつくれるけれど、常温のしばりのなかでも、いかにパン屋らしさを残しつつ表現するかということに挑戦しています。パン屋には「ライブ感」という良いところもありますからね。試作は発売と同時ですよ。毎日素材の状態が異なるから大変です。仕上げの時間も限られます。おいしく、崩れにくく、格好よく出したい、と思うから毎回、頭を使います。

◇普通においしい日々のパン

旬のフルーツをたくさん盛って、原価も50%くらいかけてつくりこんでいるデニッシュはどうしても高価になりますが、毎日食べてもらいたいロールパンなどは、100円台です。バターロールに卵を塗らないのは、皮みたいな食感になってしまうから。それよりも、ココアや粉を振って、クープの入れ方などで表情をつくったほうがおいしいし、きれいだし、楽しいです。
手粉は米粉日清製粉の「みのり」)と「カメリア」を1対1にしています。「みのり」にはべたつきを抑える効果と、日本人の好きな米の香り、甘味があります。料理人がうちのバゲットを食べると、「なんだかちょっとご飯っぽい香り」って言うんですよ。


 ぼくにとって食というのは、腹を満たすものというよりは、食べて幸せになるものという想いがあるので、食卓で笑顔が生まれるようなものづくりを心がけています。かつては技術を優先し、特殊ジャンルで細かいマニアックな商品づくりを究めていましたが、自分の店を始めてからは、子供からお年寄りまで、普通においしいと思ってもらえるものをつくりたいと思っています。

 

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須藤秀男 / ブーランジェリースドウ オーナーシェフ
横浜市出身。エコール辻東京卒。「メゾン・ド・プティ・フール」、「タイユバン・ロブション」、「パティスリー・ペルティエ」、「マリアージュドゥファリーヌ」などを経て、2009年、世田谷・松陰神社前で開業。キリクリームチーズコンクール、ガレット・デ・ロワコンテストなどで受賞歴多数。

(NKC Radar Vol.80より転載)

 

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最近の記事


 

メゾン ランドゥメンヌ赤坂店オープン

2018年4月16日、Maison Landemaine(メゾン ランドゥメンヌ)日本上陸2号店が赤坂にOPENします。

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メゾン ランドゥメンヌはパン職人の石川芳美さんとパティシエのロドルフ・ランドゥメンヌさんのふたりが2006年にパリでスタート、現在はパリで14店舗を展開しています。

 

日本の1号店の記事はこちら。

 2号店は赤坂のオフィス街で、平日のみの営業。本格派のパンをウイークデーにも手軽に楽しめるようにしたサーヴィスが、オフィスワーカーの人気を呼びそうです。

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たとえば、人気のクロワッサンとコーヒーのモーニングセット(400円~)やランチボックス(1000円~)。このランチボックス、日替わりのサンドイッチ(海老とアボカドのチャバタサンドなど)に季節の野菜、フロマージュブランと季節のフルーツとグラノーラのデザート等が付いてくるところがチャーミング。

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看板商品は日替わりで毎日5種類ずつ提供されるアルザス地方の薄焼ピザ風パン「タルト・フランベ・ヴァリエ」(580円)です。

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メゾンランドゥメンヌ赤坂店
港区赤坂2-10-5
7時~19時半 土日祝日定休

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新しいNewsはFacebookページBread Journalで随時更新中

その他、最近書いた記事はこちら

 






つむぎとアニエス

たまには、iPhoneから書いてみたいと思います。

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きょうは、ずっと行きたいと思っていた、佐倉のつむぎへ。パン職人に取材し執筆をする仕事を始めて間もない頃から、勉強会にお誘いいただいたりなど、お世話になっている竹谷光司さんのお店です。

↓ ちょっと昔の記事

竹谷光司さん感謝の会: Bread Journal

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竹谷さんは今年から、現場を離れてしまいましたが、二階のカフェで、お会いすることがかないました。

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熱々のミネストローネと全粒粉のパンなど。

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階下の売場のパンも温めて、カットまでして出してくれます。先日、生地がおいしいパンについて書いたばかりですが、つむぎのパンもそう。変わったパンはない。お馴染みのパンが、どれもほっとするようなおいしさなのでした。

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カスタード入りのメロンパンもほんのり温かく、カリッと。

竹谷さんに会いにはるばる海外から来られていたお客さまと合流してしばし日本のパン談義。取材でなく、ただお顔を見に伺ったのですが、思いがけず、濃い時間となりました。有難うございました。

 

Bakery&Cafe つむぎ

千葉県佐倉市ユーカリが丘2-2-7

https://www.facebook.com/tsumugi3752/

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 佐倉まで来た機会にもう一軒、ハシゴを。

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 Boulangerie Agnès(アニエス

佐倉市王子台1-15-20

boulangerie agnès (ブーランジェリ アニエス)

 

アニエスドミニク・サブロン(フランス)やル パン コティディアンなどで修業された高橋美智代さんのお店です。本格ハード系からヴィエノワズリまで、心躍るラインナップ。わたしが選んだクープ1本の長時間発酵バゲットは、旨味たっぷりでした。

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 アニエスは、東匠で設計施工をさせていただきました。パンを並べるテーブルやイートインのテーブルは廃材(もとはドアや棚)利用の手づくりです。

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 東匠はベーカリーやパティスリー、カフェなど店舗のデザイン、設計施工をしています。最近、Instagramを始めました。ご興味のある方はぜひご覧になってみてください。

ベーカリー・パティスリーの設計施工 東匠

 

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季節のcouques(クーク)、リンゴ。

本日の締めくくり。

クークはデニッシュのことです。

アニエスのはザクザクッとして、食べ応えがあります。

 

iPhoneで書くと、とりとめなくなってしまうような?たまにはいいかな?

今更ですが、撮影もiPhone、執筆もiPhone

ということが、わたしにはまだ新鮮です。

また書いてみます。

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラン・ブルー 成瀬正さんインタビュー「しっかりと向き合うことで、よりいいものをつくる」

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』46人目のインタビュイーは高山の「トランブルー」の成瀬正さん。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。

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しっかりと向き合うことで、よりいいものをつくる
成瀬正さん / トラン・ブルー オーナーシェフ

◇売り場に出さなかったパンをみんなで検証する


スタッフを順番に休憩に行かせていると、自分の食事をする時間はなかなかとれません。なので、パンをじっくりと食べる機会は少ないのですが、いつ食べているのかといえば、売り場に出さずに外したものを食べることが多いです。

 

なぜ外さなければいけなかったかを、みんなで食べて検証するためです。お客さまに少しでもおいしく食べていただけるように、今ある商品の質を向上させたいと思っています。そのために、スタッフみんなで食べて、昨日のパンと何がどう違うか、一日に何回か焼くパンだったら、前回とどこが違うか、改良点は何かを見つけていくことが大切だと考えています。

 

店に出せない理由はいろいろありますが、その多くは焼きかたによるものです。手で持ち上げたときに軽すぎれば、「水分が飛びすぎてスカスカになっているかな」とか、重すぎれば、「おそらく口どけが悪いだろうな」とか。一見、普通に焼けているようでも、さまざまな方向からパンを見つめると、店には出せないものが出てきます。売り場に並ばないパンから学ぶことが、たくさんあるわけなのです。

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テレビなどのマスコミで取り上げられるのが、クロワッサンやデニッシュなどのヴィエノワズリーが多いためか、そうしたパンを目指して来られる方が多かったのですが、最近はハード系をお求めの方もずいぶん増えてきました。

他県から何時間もかけて来られる方もいらっしゃるので、常にきちんとしたパンを出さないと申し訳ないと思っています。お客さまによっては、ものすごくパンに詳しい方や、パンが好きで何を食べてもおいしいと思われる方、また、厳しい目を持った方もいらっしゃいますが、どの方にも同じレベルのものを召し上がっていただけるようにしたいという気持ちで、毎日のパンに向き合っています。


スタッフたちはやがて、この店から独立していきますが、それぞれ地元に戻って開業し、その土地に根ざしてやっていくためには、作業や結果を一つひとつしっかりと見つめ、見極める、というこの検証が、とても大切なことだと思っています。「やっぱりほかのパン屋さんとは違う」とか、「何度も足を運びたくなる」とか、そういうお店になってほしいので。スタッフには「もっとよくなるはず」という姿勢で取り組んでほしいですね。


◇トラン・ブルーのロデヴ


そんなわけで、パンを食べるのは毎日のチェックのときが多いのですが、一番、量を食べるのは、自分で配合から考えて試作するときですね。そういうときは、かなり食べます。この間はロデヴでした。

 

ロデヴのように多加水のパンは一般的に、「バシナージュ」といって、足し水をする工程があります。多加水のパンには最も適した方法だと思います。先日は、あえてそれをせず、対粉95%の水の中に粉全量と種と酵母と塩を最初から入れて、手ごねで行いました。生地の変化、発酵の具合を観察したいという好奇心からです。それをパンチでつないでいきます。ボールの中で1時間の間に10分おきに生地を返す作業を手でします。酸性の種も入りますし、生地らしくなってくるのが想像できるのです。そしてトータル3時間の発酵を取ります。機械で回していないので、独特なロデヴになっているとは思いますよ。

 

シンプルなパンは、やっていることはほぼ一緒でも、つくり手によって違いが出てきます。しっかりとした配合と工程があっても、生地の育ちかたを見て、このタイミングだと思って作業をすることで全然違ったものになる。うちでロデヴに使う粉は「リスドオル」、「オーション」、「レジャンデール」。水は飛騨の水です。浄水器を通す必要はなく、硬度は低めだと思います。ですから水は入りにくいのですが、それもまた面白く感じています。


◇スキー場で食べるパン


毎年二月、パン屋仲間で集まってスキーに行きます。ブロートハイムの明石克彦さんの山荘に、みんなそれぞれパンを持って集まって、朝まで料理をつくって食べて飲んで、そしてスキーをします。ハムやチーズも山ほどあるので、スキー場でサンドイッチをつくったり。冷たくてもおいしく食べられるパンばかりだし、多加水のパンやドイツパンは焼き戻ししなくてもいいし、パサパサになりにくい。大きなパンは、日持ちもするのです。紙にくるんだり、布につつんだりして、旅に出るときに持ち歩いて食べるのも、楽しいと思います。

 

成瀬正 / トラン・ブルー オーナーシェフ
1960年岐阜県生まれ。成城大学卒業後、「アートコーヒー」、「日本パン技術研究所」、「ホテルオークラ東京」を経て、1989年、飛騨高山に「トラン・ブルー」を開業。2005年のクープ・デュ・モンド(ベーカリーワールドカップ)では日本代表選手として出場、世界第3位に。2012年のクープ・デュ・モンドでは、監督を務めた日本チームが優勝。著書:『世界も驚くおいしいパン屋の仕事論』(PHP研究所)、『トラン・ブルーが切り拓くパンの可能性』(旭屋出版)

 

(NKC Radar Vol.79より転載)

 

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『BAKERS』刊行記念トーク「人気店のシェフと語る素敵なパンの世界」@神楽坂ラカグ 清水美穂子×須藤秀男(ブーランジェリースドウ)×榎本哲(パン・デ・フィロゾフ)

1月15日、神楽坂のラカグで、ブーランジェリースドウの須藤秀男さんと、パン・デ・フィロゾフの榎本哲さんと、『BAKERS おいしいパンの向こう側』刊行記念トークショーを開催しました。

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主催は新潮社さん。本は実業之日本社さんですが、先日、ペリカンさんのイベントでMCをさせていただいたこともきっかけとなり、わたしの本のイベントもしていただけることに。有り難いことでした。

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神楽坂なので、最初にお声掛けしたのは昨年、神楽坂にお店をオープンしたばかりの榎本さんです。そして、かつて「パティスリー ペルティエ」時代に、志賀さんのもとで、榎本さんと一緒に働いたこともある須藤さんにもご出演いただくことに。

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辻調理師専門学校メディアプロデューサーの小山伸二さんがMCを務めてくださいました。

と、ここまででもう既に、たくさんの人のおかげで、わたしのこの日のこの時間が在るのです。方々にお願いし、みずからの本のイベントを企画するという、慣れない立場と緊張からようやく解放されて、今、ようやくその有り難さに胸をいっぱいにしています。感謝です。

おかげさまで85名、満席御礼にて、トークショーはスタート。

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トークの前半は、わたしと本についてがテーマでした。

魅力的なモノの向こうには、必ずそれをつくる魅力的な人がいる。
その人たちの仕事をクローズアップしたいと思い、この本の取材と執筆にあたりました。

20店舗の新たな取材は9月から10月にかけて行われ、執筆は10月末までに初稿を納品という、とてもハードなスケジュールでした。

たとえば榎本さんのお店など、9月にオープンでしたから、普通なら無理でした。
でも、榎本さんのことは、数えてみれば14年くらい前から知っていたし、書いてきた。
他の20店舗のパン屋さんも、10年以上、インタビューを続け、書いてきた方々がほとんどです。

その日々に、味方になってもらいました。
この本のできるまでは、パンにたとえれば、長時間発酵の短時間高温焼成、といえるかもしれません。

ガイドブックではなくて、職人の仕事にクローズアップした本をつくることを、10年以上の間、ずっとしたかった。ずっと企画は通りませんでした。それを、今回、してよいことになり、夢のようでした。

今回取材する、原稿を書くにあたって、気を付けたことやルールなど、についても質問をいただきました。これはいつもと同じで、どんな人とも、個人対個人で会話するということ。自分の言葉で語るということです。

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後半は、シェフそれぞれに、わたしから公開インタビューするかたちで、彼らの魅力を皆に知ってもらいました。

須藤さんのお店へ行くことを本で「映画でなく芝居、ビデオでなくライブ」と本で例えたのは、なぜだったか。
これは、書いた時は意識していなかったけれども、この本の要な部分のひとつ、多くの方に知っていただきたいことのひとつです。

ちょうど、パンニュースさんも、記事にしてくださいました。

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榎本さんは、話すのがあまり得意でないのでパンでカバーとおっしゃいながら、お土産をつくってくださいました。
ポム(ポミエの小さな丸形)、αバゲットのフィセル、そしてクロワッサン。
こんなにたくさんつくってくださるとは!!そしてこれらのパンの饒舌さといったら!

 

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イベントが終了して、すぐ場所を移動するお約束になっており、おひとりおひとりにご挨拶ができず失礼しました。
いらしてくださった皆さまに、この場を借りてお詫びと心からのお礼を申し上げます。

これからわたしはまた、新しい挑戦をしてみたいと思っています。
取材で出合った景色を、絶景を、自分の言葉で書くことで、そしてたまに写真を撮ることで、皆さまとシェアしていきたいと思っています。

今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

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