『月の本棚』が本になりました

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『月の本棚』清水美穂子著(書肆梓)11月23日発売

LePetitmec/RÉFECTOIREのサイトの連載
『月の本棚 清水美穂子のBread-B』が本になりました。

普段はBread+something good(パンとなにかいいもの)をテーマに執筆していますが、この本は、Bread-B(BreadからBを引き算)してみました。月を見上げているときのような、途方もない、そんな読後感になる本を37冊、ご紹介しています。

『月の本棚』清水美穂子著
150ページ 価格 1,000円(税別) 発行 書肆梓 
shoshi.azusa@gmail.com

 
『月の本棚』は上記メールでご注文いただけるほか、下記で購入できます。

今野書店
松庵文庫
月よみ堂

文学フリマにも出品します。

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【最近書いた記事】
こちらはもちろんパンとパン屋さんの記事です。All AboutとYOMIURI ONLINEです。

 




Bread days in 10 years / ameen's oven

ameen's ovenがOPENして14年、椋の木と大きなテーブルのある今の場所に移ってちょうど10年ということで、パンにまつわる記念の冊子が発行されました。ameen's ovenらしい、チャーミングな一冊です。 

 

ミシマショウジさんの「パンのふくらみの宇宙」の詩も載っています。2004年に初めて読んだときからこの詩が好きです。

 

「ほら、それは君がふくらます風船ガムのようで、気球のようで、大気を抱くこの星のようでしょう」

 

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この冊子が、パンをご注文された方にもれなく一部ついてくるそうです(なくなり次第終了)。ameen's ovenはいま、和栗のフォカッチャやパンプキントースト、GO-BOコンプレ、そして和栗や黒糖キャラメルぺカンナッツのスコーンなど、「秋のみのりのパン」が出揃っていますので、サイトをご覧になってみてください。

 

冊子には、わたしも寄稿させていただき、とても、うれしいのです。

ミシマさんの許可を得て、ここに転載します。 

 

すんくじら、という居場所   

清水美穂子 / ライター・ブレッドジャーナリスト

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サウスダコタ州の大草原に囲まれた町で撮影(1984

 

すんくじら、という言葉を初めて聞いた時、胸の上のあたりが、すんと淋しくなった。大海原に鯨が一頭、孤独に、でも悠然と泳いでいるところを思った。

 

「すんくじら」とは薩摩の言葉で、意味は「すみっこ」。「すん(隅)」も、「くじら」も、もとは、物陰の、光のあたらないところを指すらしく、ある種の淋しさは正しかったが、鯨のことではなかった。

 

それからしばらくして、私の中に、すんくじらが住みついた。それは静かな心の置きどころ。落ち着く居場所のメタファーだった。

 

たとえば、夜道をひとりで歩いている時に、記憶の片隅に浮かぶ風景がある。それは全方角、ただただ広い大草原に囲まれた町の端にある、うらぶれた1軒のカフェだ。日が暮れると橙色の灯がともるその店は、茫漠とした場所に穿たれた灯浮標(ブイ)だった。無限に広がるように見えるものの末端であり、安心できる場所だった。

 

私の仕事は案内人。情報の海で溺れそうになっている人に、浮き輪を渡すこともある。雲のようにしばらく浮いて、のんびりと流されたらいい。さっさと手離して、好きなところへ自力で泳いで行ってもいい。誰かに、今どこへ行くべき、何をすべきと薦めることは、長生きすればするほど、難しくなるが、たまに、誰彼かまわず、ぜひともそこに行くように、薦めたくなるときがある。

 

それはたとえば、すんくじら、つまりは世界の片隅で、まだ暗いうちからせっせと誠実なパンを焼いている、職人に出会ったときだ。どんな日であっても、その町のその店で、その人はパンを焼いている。その確かさを思うだけで、ほっとして、ゆるやかな心地になっていく。※

 

-----このパン屋さんへ行けば、安心だよ。
-----もしひとりぼっちでも、大きなテーブルがひとつあるから、誰かと一緒にスープやサンドイッチが食べられるよ。

 

パンこそがまた、すんくじら的な位置にある食べものだと思う。私は、フランス料理のコースなら、中心となるメインよりアミューズが、句読点となるパンやデザートが、気になって仕方ない。主役ではない、ひっそりと目立たないところにいる、愛すべき名脇役

 

さらにフォーカスを絞る。食パンならば、ミミのところ。バゲットならば、よく焼けたクラストと、気泡を透かして見る向こう側。角や端から、ひろく世界を見渡したい、と思う。

 

同じ角のカフェに立って何年も、交差する路を定点観測する人に、憧れる。
露地を通る人を眺め、天気を体感する、外のような内のような、どちらともつかない縁側を愛している。

そしてこの世の果て、結界というものに、惹かれる。橋がかり。あの世とこの世。往来できるところ、できないところ。国境、空港、海辺、川辺、窓辺……遠く近く、広く狭く、この世界を縁どるものたち。

 

私は今日も、すんくじらに居て、世界と接している。


※インターネットの宇宙で、ameen's ovenに辿りついた時には、胸が高鳴った。
 それから14年。詩人のミシマさんは今日も変わらず、誠実なパンを焼いている。

 

ameen's ovenで近日開催のイベント

 

 

フランスのパンの貴重な資料室、Archives du pain français en hommage au professeur R.Calvel へ

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小さな勉強会があり、ラトリエ ドゥ ブテイユの仁瓶利夫さんがこの夏、横浜の港南台に開いた、資料室兼アトリエを訪れた。パン職人、製パン従事者を対象に開かれている場所だ。

 

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ここには、日本にフランスのパンを伝えたレイモン・カルヴェル教授の書籍やレポート、フランスのパンの貴重な資料が所蔵されている。

 

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ドイツのバハテル社の小さなオーヴンがあって、仁瓶さんがリュスティックを焼いてくださった。リュスティックでつくるタルティーヌがまた、いくらでも食べられそうなおいしさ。

 

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仁瓶さんはセミナーを開くときには常に資料を持参し、発酵をとっている間に解説をされるが、そうした資料をゆっくり閲覧できる場所をつくりたかったのだという。

 

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すごく興味深い。ここに居て、本棚や壁を拝見していると、勤勉な仁瓶さんのノートの中に入りこんだような気持ちになるからだ。

 

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おいしいパンの

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向こう側

セミリタイア後も、フランスのパンについての調査や勉強は続いていて、びっしりと書き込みや付箋の立った本もあれば、貼りだされた貴重な写真や資料もある。書き込みに疑問符があればその先、答えや真実や、その裏付けを調べていくことが、学びをさらに深めてゆくのだと思う。

  

すごいな……

と、感心している場合ではなく、わたしは、パンについて案内したり伝える人として、間違いや虚飾のない誠実な記述を、いっそう心がけたい、との想いをあらたにしました。

 

パンが多様化する日本で、さまざまな読者がいて、さまざまな媒体があって、さまざまな編集の仕方があって、自分ひとりの力ではどうにもならないことがあったとしても、コツコツと、真剣に、続けていこう。

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仁瓶さん、ありがとうございました



 

 

芳美 ランドゥメンヌさんのパン時間

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』48人目のインタビュイーは、株式会社Maison Landemaine Japon代表取締役社長の芳美 ランドゥメンヌ(石川芳美)さんです。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。 

 

パン屋の中にいること自体が好き、というか、私の人生そのもの

芳美 ランドゥメンヌ(石川芳美)さん 

株式会社Maison Landemaine Japon代表取締役社長

 

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パンが生きている、という感覚

20代、30代と日本でも店をしていたけれど、女性なのでいつまで現役でできるかわからないし、40歳を過ぎてどのように食べていったらいいかなぁと考えていて、それで留学エージェントの事業を立ち上げたんです。それがあれば無理のない程度にパンを焼きながら生活していかれるかな、と思って。

留学生の受け入れ先を、いろいろな店のオーナーにお願いしてまわっていた時、パリ・13区の「ブーランジュリー トルヴィアック」という店で、今まで見たことがないような素晴らしいパンに出合いました。パンが生きているの。すごくいきいきとして、生命力に溢れた感じ。このパン、すごいなぁと、すっかり魅せられてしまったんです。そこで、留学生の受け入れ先になってもらうのはもちろんですが、自分も「ここで働いてもいいですか?」とお願いしてしまいました。当時の私は流しでパンを焼いていたんですよ。フランスでは「エキストラ」っていうんですけど、困った時に呼ばれる臨時雇いの職人です。いつもコックコートと靴を持って、今日はあの店、今日はこの店とパンを焼いていたんです。

 

生地を感じる手を持つ人

その素晴らしいパンを焼いていたミカエルは現在、うちで統括シェフになってもらっています。彼はなんていうのかな、フランス語では「手を持っている」って表現するんですけど、生地を感じる手を持っている人なのです。

パンというものは、的確なタイミングを見抜けないとつくれないのです。私たちは量らなくてもお米を炊けるじゃないですか。水もこれくらいって、量らなくてもわかるでしょう?なぜできるかというと、小さい時からご飯を食べてきて、適当な具合を知っているからです。感覚が身体に染み込んでいるんです。ミカエルのパンづくりはまさに、それがすべてだった。彼のすごいところは、いろんな生地を仕込んで、タイマーなしで、全部ちょうどよく仕上げられるところ。彼に学んだことは、私のパン職人としての側面を形成したと思います。どんな環境でもパンを同じように仕上げられるのがマスト、という能力は、その時代に築きました。

 

酵母の香りを生かしたパンづくり

一番好きなパンは、長時間発酵の「バゲットトラディション」です。シンプルだけど、自分を表現できるパンだから。逆に、人のつくったトラディションを見たら、その人がどういうパンづくりをしているかがわかります。いいバゲットは、底が少し反って、裏側の端から1センチのところが浮いているんですよ。酵母を活かせるパンでもあるので、自分がつくった種に、一番適しているんです。私のトラディションは3日目もおいしいのが特長です。香りがいいですよ。私は酵母に魅せられて、この仕事に入ったんです。

朝食はこのトラディションを割ってグリルして、コンフィチュールを塗って食べます。フランスでオーガニックのいろいろな香辛料が粉砕されたものを売っているんですけど、それを紅茶とブレンドして豆乳チャイをつくり、毎朝ボウル2杯飲んでいます。至福の時です。

洋梨から起こした酵母種でつくったプチパンに、シェーブルチーズと蜂蜜と胡桃のサンドイッチという取り合わせも、すごくおいしくて好きです。いろいろな果物の特性を生かしてつくれるのもパンづくりのおもしろさだと思っています。パンもですが、パン屋の中にいること自体が好きというか、私の人生そのものですね。

 

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フルーツピュレ入りの「デザートハード™」

この数年、ブルターニュのフルーツをピュレにした商品を製造する「ラ・フルティエール」から依頼を受けて、フルーツピュレを入れたハード系のパンを開発しています。甘くないピュレなので、単に生地に入れただけではあまりおいしくないんですね。で、フランスではハード系のパンに甘味を加えるのはタブーだから入れないけれど、蜂蜜を10%ほど入れてみたらおいしかった。そこで、この新しいパンのカテゴリに「デザートハード™」という造語をつくり、自分のなかでおさまりをつけました。それからは早かったですね。次々に、カシスやイチゴのデザートハード™をつくりました。最近のヒット作はココナッツピューレ、ココナッツミルク、ココナッツロング、パイン、キウイ、そしてバナナを練り込んだ「ル・パン・デジル(島々のパン)」です。これはタンドリーチキン、タイカレーやグリーンカレーなど、スパイシーな料理に本当にすごくよく合うのです。辛味と香味と甘味の調和を、ぜひ味わってもらいたいと思うパンです。

 

芳美 ランドゥメンヌ(石川芳美)

経営者、パン職人。Masion Landemaine、株式会社Maison Landemaine Japon、Yoshimi Boulangère International (留学事業)創業者。広島でパン教室、パン店開業後渡仏。2006年にロドルフ・ランドゥメンヌ氏とパリ9区にMaison Landemaine1号店を開業。現在はフランスに15店舗。日本では2015年に麻布台に、2018年に赤坂にオープン。

(NKC Radar Vol.81より転載)

All Aboutの取材

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 最近の記事

 


 

 

一からのパン作り

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 パン屋さんの教科書として26刷も増刷されている『新しい製パン基礎知識 改訂版』(パンニュース社)の著者、竹谷光司さんが新しい本を出版されました。

 

以前から『新しい製パン基礎知識』が難しくて理解できないという若手技術者の声があり、また、家庭製パンの先生方からは「より理論的に学びたい」という声もあったそうで、それが今回の出版の背景にあります。

よって、この本は家庭製パンをされる方、学生からパン職人歴の浅い方を対象に、10種の生地と35のパンのつくり方がやさしく、オールカラーで紹介されています。

 

大きな特徴のひとつは、ポリ袋を使って仕込むこと。小麦粉と水をポリ袋の中で混ぜ合わせます。これは一般社団法人ポリパンスマイル協会が普及させている、ミキシングの方法です。そして手捏ねで生地をつくります。最終的にはパン屋さんで売っているようなパンがつくれるようになるかも。

 

基礎的な理論をわかっていたら、自分好みに、家族やお客さん好みに、いくらでもバリエーションをつけていかれると思います。そうしたパンづくりは、その人のセンスによって、無限の可能性を持つはずです。

 

これからパンをつくられる方に、おすすめです。

ニコパン、グルテンフリー。米粉パンに再び注目。

昔、米粉のパンが話題になり始めた頃、いくつか取材を受けましたが、あまりいいことを言えなかった記憶があります。その頃食べた米粉100%のパンは、なんというか、いまひとつだったし、米粉ライ麦粉のような感覚で何割かブレンドするだけならば、それはパンのバリエーションとして、なかなかおもしろい、おいしいものになる可能性があったけれども、米粉100%のパンは、「パンとしてどうなのか?」というのがこれまでの私の感覚でした。米粉のパンと言っても、小麦のグルテンをわざわざ添加してパンにしたものもあったようです。グルテン不耐症の人の食養生としての米粉パンであれば、それはNGですね。

 

米の消費量を上げる目的であれば、何もパンにしなくとも、ご飯やお菓子で食べたらいいのにな、と思っていました(「パンがなければお菓子をお食べ」みたいに無知、あるいは意地悪に聞こえないといいけれど)。それが一番おいしいもの(わたしはお米のご飯が大好きです)!

 

グルテン不耐症については、日本であまり聞かなかったために、私はこれまであまり注目してこなかったのですが、最近は、ニューヨークやパリで仕事をする友人たちと話していると話題になることも多かったのです。そのことについてはまたあらためて書く機会もあると思いますが、このブログでは2年前にナディア・サミュさんのことを書いています。

そしてこの4月、学生時代の先輩が関わるグルテンフリーのお店がオープンして、お知らせをいただき、あらためてグルテンフリーのパンについて考える機会に恵まれました。

ニ子玉川の高島屋のすぐそばにできたグルテンフリーカフェ「タマクーヘン」です。

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運営はさまざまな飲食店を手掛ける株式会社クルヴェル・キャンの小田寿夫さん。お客さまの声を聞くうちに、グルテンフリーの食の需要を肌で感じてきた人です。

 

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小田さんは数年前から米粉バウムクーヘンの開発に取り組み、国産の有機玄米全粒粉(JAS認定)を使用した「タマクーヘン」がこのカフェの看板商品となっています。

 

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Tama Kuchen | タマクーヘン

 

カフェの、もうひとつの看板商品が「ニコパン」。米粉100%のパンです。小麦粉、卵等を使用せず、国産米粉を何種類かブレンドしています。酵母は白神こだま酵母、油脂は米油、砂糖はきび砂糖を用いています。

 

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吸水性の高い米粉により、パンはしっとりしています。普通の食パンに比べて、ヒキ(ムギューッという伸び感)には欠けるのですが、それでも、ちぎった時の感覚が、今まで体験した米粉100%のパンの中で一番小麦粉のパンに近く感じたかも。パティシエのつくるリッチな食パンのような。ほのかな甘さとしっとり感は日本人好みだと思います。米粉のパンも進化しているんですね。

 

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食べかたとしては、トーストがおすすめです。カフェではこのパンのトーストメニュー、スープなどと一緒に楽しめる軽食メニューがあります。バリエーションとして、レーズンやチーズ、オーガニックのチョコレート入りもあります。

 

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米粉パンのブームが再び、訪れているようです。

 

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この6月には大手製パン会社も動き出します。乳幼児のアレルギー発症率や訪日外国人の増加を踏まえ、第一屋製パンでは国産米粉100%、グルテンフリーのパンの新ブランドFAHAN(ふぁはん)がスタート。

 また、株式会社中九州クボタの子会社である、株式会社熊本玄米研究所と株式会社トレードマークの合弁会社「玄米玄氣堂株式会社」による玄米パスタや玄米パンを中心にしたレストラン「GENMAIGENKIDO」が松濤にオープンする予定です。

米粉のパン、またしばらく注目していきたいと思います。

 

ブーランジェリースドウ 須藤秀男さん「食べて幸せになるもの」

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』47人目のインタビュイーは、ブーランジェリースドウの須藤秀男さんです。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。 

腹を満たすものというよりは、食べて幸せになるもの

須藤秀男さん / ブーランジェリースドウ オーナーシェフ

 

◇厚切りトーストで食感を楽しむ

休みの朝は山型の「世田山食パン」1斤を3枚切りに、厚さでいうと4センチくらいにスライスして、軽くトーストします。薄切りトーストでは特徴が失われてしまうし、焼かないと食感が生きない。厚切りにして焼くのは、食感を大切に考えるからです。中のフワッとした食感を残しつつ、表面だけサクッと焼いて、発酵バターを冷たいままのせます。焼くことで香りもよくなります。このパンの特徴を楽しむなら、断然厚切りがいいんです。

◇おいしさには食感と口どけが影響する

「ハニートースト」という商品はとても人気がありますが、砂糖と蜂蜜とバターを食パンに浸みこませて、コンベクションオーブンで焼くだけなんですよ。基本的にこの材料を合わせて熱を入れれば、キャラメルができるんです。
ラスクもバターと甜菜糖を塗って焼いて、表面に透明できれいな飴をつくります。うちのラスクは分厚いので、外はカリッと中は柔らかく楽しめる。噛むとラスクバターがじわっと浸み出します。これも食感。
おいしさには食感と口どけが重要なポイントなんです。バターやオリーブオイル、クレームパティシエール、あるいはマッシュポテトなどを塗ることで、パンの乾燥を防ぐことができ、口どけがよくなります。

◇フォカッチャが好き

好きなパンはフォカッチャ。プレーンなのが好きですね。エキストラヴァージンオリーブオイルをたっぷりつけて、岩塩かゲランドの塩をちょっと振って食べるのが、一番好きな食べかたです。フォカッチャは万能なんですよ。カレーパンにしても、チョコを包んでもおいしい生地です。
パンは大きく焼いた方がおいしいから、フォカッチャも大きく焼いて切り分けます。小さくかわいいのは買いやすいけれど、皮を食べている感じになるし、乾燥したり劣化したりも早い。食べるときに切って、リベイクして食べてもらうとおいしいです。

◇まずは視覚で味わう、スドウスタイル

目で楽しめるということも大事です。日本人はとくに、まず視覚で味わうと思うんですよ。フルーツや野菜を盛ったデニッシュやフォカッチャは、タルトのようにナイフとフォークで食べてもらえたらなぁと考えています。
立体感のあるパンは、パン屋があまりやっていない、自分らしいスタイルと思ってきましたが、最近ようやく「スドウっぽい」と言ってもらえるようになりました。誰がつくったのかわからない感じのパンは、あんまりおもしろくないなぁとぼくは思うんですよ。

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菓子屋のように冷蔵ケースを使うことができるなら、もっといろいろなものがつくれるけれど、常温のしばりのなかでも、いかにパン屋らしさを残しつつ表現するかということに挑戦しています。パン屋には「ライブ感」という良いところもありますからね。試作は発売と同時ですよ。毎日素材の状態が異なるから大変です。仕上げの時間も限られます。おいしく、崩れにくく、格好よく出したい、と思うから毎回、頭を使います。

◇普通においしい日々のパン

旬のフルーツをたくさん盛って、原価も50%くらいかけてつくりこんでいるデニッシュはどうしても高価になりますが、毎日食べてもらいたいロールパンなどは、100円台です。バターロールに卵を塗らないのは、皮みたいな食感になってしまうから。それよりも、ココアや粉を振って、クープの入れ方などで表情をつくったほうがおいしいし、きれいだし、楽しいです。
手粉は米粉日清製粉の「みのり」)と「カメリア」を1対1にしています。「みのり」にはべたつきを抑える効果と、日本人の好きな米の香り、甘味があります。料理人がうちのバゲットを食べると、「なんだかちょっとご飯っぽい香り」って言うんですよ。


 ぼくにとって食というのは、腹を満たすものというよりは、食べて幸せになるものという想いがあるので、食卓で笑顔が生まれるようなものづくりを心がけています。かつては技術を優先し、特殊ジャンルで細かいマニアックな商品づくりを究めていましたが、自分の店を始めてからは、子供からお年寄りまで、普通においしいと思ってもらえるものをつくりたいと思っています。

 

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須藤秀男 / ブーランジェリースドウ オーナーシェフ
横浜市出身。エコール辻東京卒。「メゾン・ド・プティ・フール」、「タイユバン・ロブション」、「パティスリー・ペルティエ」、「マリアージュドゥファリーヌ」などを経て、2009年、世田谷・松陰神社前で開業。キリクリームチーズコンクール、ガレット・デ・ロワコンテストなどで受賞歴多数。

(NKC Radar Vol.80より転載)

 

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