ドイツコッペと職人の言葉
あの日、ドイツパンとドイツ菓子のお店に行って
気がついたら黒いパンではなくて
白いパンばかり選んでいたのは
なぜだったんだろう。
海風に吹かれて、浮かれて、日差しに晒されて、
店の扉を開けたときには、心がかろやかに
そしてまっさらになっていたのかもしれない。
そういうとき、心もからだも、複雑なものを欲しない。
最初に目を惹いたのが、ほかであまり見かけない
このまるまるとした白パンだった。
今朝のパンはドイツコッペ。
食パンと同じ生地を直焼きしているシンプルなパン。
雨が降った後の朝にふさわしい、澄んだ味がする。
お話くださった職人さんの瞳も澄んでいた。
見栄やはったりのきかない職人の仕事。
ゆっくりと丁寧に紡ぎだされる言葉に無駄がなく
誠実なところが、そのパンとおなじようだった。
間合いがあり、ICレコーダーを必要としない。
ただ書き留めれば、美しい文章になっていくようだった。