ナショナルデパートのパンの本

人気のパン屋さんのあのパンを家でも作ってみたい、と思うのは家でパンをつくる

多くの人が思うことで、それはレストランで出合った素敵な一皿に触発されて、

家庭の夕食で、その一皿を再現しようと試みたりする、その行為に似ている。

だから世の中には人気のパン屋さんによるさまざまな家庭製パンの本が出ている

のだけれど、それはもちろん、お店の「あのパン」とは異なっている。

異なっているけれど満足するのは、自分の欲するその店らしさが、その人らしさが

家庭向きに作られたパンのなかにも垣間見えるところかもしれない。

それは自分が作ったちょっと不格好かもしれない唯一無二のパンだけれど、

好きなお店の要素も入っているのだから愛すべきパンとなるはず。

Diary1212211

わたしはパンのおいしさは作り手の目や、手などすべての感覚によるところが大きい

と思っているので、素材にずっと目を配ってと接して感じながらつくりたいと思う。

そして本を見ながらつくるのならば、信頼するヨガのインストラクターの言葉のように

我が身を素のままでゆだねられる本でなくてはと思う。

本は、文字言葉と写真で伝える。

パン作りは、小麦と酵母と水と塩を混ぜて発酵させて成形して焼く、なかで、

いろいろなバリエーションがあるのだけれども、ナショナルデパートの秀島康右さんの

伝え方は言葉の端のほうまで、さまざまな仕事をしながらひとりでパンを焼いてきた

オリジナルの体験が活きて、そのときの厳しさが言葉の優しさとなっているようで、

いいなぁと思う。

最初の「パン作りを始める前に」というところに、お決まりの「酵母菌とは」の

説明がある。空気中には自然物を分解して発酵させる」ための酵素酵母菌などの

菌類が数多く浮遊し、生命の循環サイクルを形成しているという話。

”パンを焼くという行為も、自然の循環サイクルの中で万物が土へと帰るために必要な「分解」と「発酵」の現象をボウルの中で再現しコントロールすることだと考えています。”

以前、岡山の店から、酵母の採取場へ案内してくれる彼について行く間、そんな話を

清掃業についていた時の話とからめて聞いていたことを思い出す。腐敗の話もしたっけ。

Diary1212212

ナショナルデパートといえば5kgのカンパーニュ。中身のカラフルな。

カンパーニュに四季、だなんて、季節感を意識させる名前をつけるのは、ピンクや黒や緑や黄の色をつけるのは何故か。それは日本人が好きな楽しさがあるから。と、この本の紹介にあたっては書いておこう。

もちろん楽しいんだけれど、ほんとうは、食事としてのシンプルな配合の、茶色いベーシックなパンを焼きたいと思っても、地方では(いや、首都圏でもそうかもしれない)それが受け入れられず悔しい思いをした彼が、そうしたパンを少しでもメジャーにするためにとった方法なのだと思う。

わたしは彼の焼く、茶色の普通のカンパーニュやライ麦パンがより、好きだ。

そうしたパンはこの本の後半にもあるけれど、それを、七輪で焼いてバターとレモンを絞って食べさせてくれたりした、岡山の取材を思い出すと、ほんとうにこの人、秀島さんの感覚に拍手を送りたくなる。そしてこういうパンを焼く人が、居心地の悪い思いをしないよう、茶色のパンを、もっと広めていかなくてはと思う。

話がちょっと脱線してしまったけれど、久々に感動したレシピブックでした。

家でパンを焼かれる方は、いつもとちょっと違うパンを焼いて、みんなでわけて食べる楽しみを、このセンスあるレシピブックで、ぜひ。

『バターと卵を使わない

ナショナルデパートの「四季ノカンパーニュ」とライ麦のパン』/秀島康右