伊豆の山姥

伊豆の山姥から、さくらんぼが送られてきた。
山形から届いた贈り物のおすそ分け。
送り主の庭でとれたものだそうで、

今まで食べたことがない、おいしさ。

 

わたしには、伊豆の山姥、という伯母がいる。
いまはもう、伊豆にはいないのだけれど、ずっと伊豆にいた。

 

田舎らしい田舎のないわたしは、子供の頃の夏というと伊豆を思い出す。
着物、千代紙、お香、能面、昔話、絵本、わらべ歌、さまざまな民芸品。
そうした日本のいいものたちが、山姥によって、わたしに刷り込まれた。
(伊豆は韮山のパンの祖、江川邸に連れて行ってくれたのも、彼女だった。)

 

「伊豆の山姥」というのは、彼女がくれる手紙に記される署名。
草書体で書かれていて、子供にはほとんど解読不可能なその手紙は
大人になっても、外国語のようだった。

 

少し前から、山姥は高齢のため、わたしをわたしと認識できなくなってしまった。
それでも、枕元にわたしの本を置いて、読んでくれているという。

 

久しぶりに、山姥に手紙を書こうと思う。
文章でならまた、わたしにアクセスしてもらえるかもしれない。