『パンづくりの科学』

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10月10日は何も考えなくてもよいパンが焼ける日。

5月5日と10月10日は日本では、気温や湿度などがパンの最適環境になる時期なので、

そんなことを言ったりするそうです。

『パンのなぜ?に答えるパンづくりの科学』吉野精一著 (誠文堂新光社

を読みました。[辻調グループ]製パン専任教授の吉野先生によるこの本は

充実の内容がコンパクトにまとまっていて、誠実に解説されているので、

パンとパンづくりに関して興味を持つすべての人におすすめしたい本です。

ベテランの技術者の方はおさらいとして、パンをつくったことがなくても

製パンに興味のある人はもちろん、パン特集を考えられているメディアの

方、必読の書です。パンの歴史から始まるので「パン」をイチから幅広く

学べます。

「おいしいパンづくりには、人間が何もしない発酵と焼成の時間、そして、

作業中に必要以上の負荷をパン生地に与えないことが必須条件です。

必要以上に手を出さないという努力をすることが大切なのです。

この勘どころを会得するには、繰り返しパンをつくり体で覚えていくしか

方法がありません」

本題のパンづくりについては、工程、製法、材料の役割、理論、心得など

に分かれていて、1冊読む間には、頭のなかで材料の準備からミキシングから

焼成までの過程を何度か辿ることになります。

ここは、ほんとうに焼いてみた経験の多い人ほどリアルにシュミレートできる

と思いますが、初心者にも読めるように、やさしく書かれています。

もちろん、「科学」的な、例えばでんぷんの分子、などのお話もしっかり。

勉強になります。

それから、こんなことも。これはパンのコンテストの審査などで

「オリジナリティ」について評価をしたり意見したりしなければならないときに、

わたしもよく考えることでした。

「オリジナルブレッドと言ってもやたらフィリングやトッピングをパン生地に

加えるのではなく、生地そのものにあなたに合った個性化を図るということです。

当然のことながら、できあがりをイメージすることに始まり、イメージした

パンの生地に見合った分割重量、丸めの仕方、成形などと加工技術の対応も

せまられます」

読み物としても、「これは私見ですが」と出てくるところが

おそらくこの先生らしさが出ていて、楽しいと思います。

いにしえの時代、ユダヤの人たちはなぜ発酵させた「種入りのパン」を

禁じたのか。これはエジプト人に奴隷として支配されていた時代のユダヤ人に

とって、ガブガブとビールを飲んで、発酵した(平らでない)パンを

ムシャムシャ食べるエジプト人への怒りの表れではないか、と先生は推測される。

なんだかマンガみたいに頭に浮かんで、そうだったのか、と

歴史に想いを馳せます。

いや、これは確か、腐敗と紙一重の発酵を不浄と思っての忌みではなかったか。

などと、知りたいことも調べたいこともまた、出てきたりして。

勉強になる一冊でした。