『和食の知られざる世界』

日本人の伝統的な食文化、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、和食についてあらためて考える機会を持つ人も多いかもしれない。

イムリーに、先ごろ出版されたばかりの辻調グループ代表の辻芳樹さんの『和食の知られざる世界』(新潮新書)を拝読して、海外における和食について興味深く感じた。世界に発信された和食を3つに分けたところなど。

日本人からみて和食とは呼べないけれど和食っぽい素材や見た目、カリフォルニアロールのような「ギミック和食」。それじたいは和食ではないが、フレンチの料理人などが日本の料理技術の影響を受けて昆布出汁や山葵などを用いる「ハイブリッド和食」、その国にある素材を用い、異文化で好まれる味、たとえばトマトウォーターの出汁などを用いるなどした新味の和食「プログレッシブ和食」。

異文化のなかに進出して商売をする時、必要なのは変換する力、それは文学でいえば「翻訳」と辻さんは言う。翻訳された料理は、たとえば、NYに進出した一風堂のラーメンだ。欧米のアッパークラスの食習慣にならって前菜から始めるコース仕立てに変換されたメニュー構成で成功をおさめている。日本のラーメンが他国のラーメンより上質だから、というだけではなくて。

一風堂がNYに進出して1号店を開いた頃、わたしは博多で河原成美さんとお会いしている。まわりにいるみんなを明るく元気にするような方だ。彼はベーカリー事業も手掛けていた。パンについてどんな話をしたのだったか。

パンは、フランスから入ってきたパンは、博多の何店舗かの店で、メロンパンのようにギミックに、明太フランスのようにハイブリッドに、いろいろに変換されて続いている。食文化の出入国。食文化を読みとり翻訳する力はパンにも活かせるのではないか。

話がそれてしまった。

この本で個人的に心惹かれたのは、和食の一流料理店について書かれたところだ。

「草喰なかひがし」と「壬生」。いいな、行ってみたいなぁと思う。そうそう行くことは叶わなそうだけれども。

今までの人生で最高の和食は、いつどこでいただいたものだったか。

それをわたしはどんなふうに味わっていただろうか。

茶道の稽古を始めてからは初釜や炉開きなどの茶事で懐石料理をいただく機会に恵まれている。わたしもこのようにして人をもてなすことができるようになりたい、と思わせられる料理だ。

年の終わりに黒豆など炊きながら、和食について書かれた本を読み、和食に想いを巡らした。明日の朝になればいつものように網でパンを焼く日常ではあるけれど。