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レフェルヴェソンス 生江史伸さんのパン時間

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』42人目のインタビュイーは高樹町のレストラン、レフェルヴェソンスの生江史伸さんでした。

おいしいパンの向こう側にはどんなひとがいるのかに興味を持ったことから始まって、パンそのものより職人さんとそのひとの居る場所(店)の成り立ちかたにアプローチし、執筆していくなかで、そのパンの受けとり手の一個人として、自分の日々のパンの楽しみについても紹介してまいりましたが、同時に、食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。

パン職人が誇りを持って、気持ちよく焼くパン

生江史伸さん /  レフェルヴェソンス  エグゼクティブ・シェフ

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この人のパンが食べたい、という感覚

 パンはいつも、この人が焼いたパンを食べたい、という感覚で食べています。

東京なら、つい先日も一緒に北海道の小麦農家さんを訪ねた「カタネベーカリー」の片根大輔さんが焼くパンが好きです。「ガーデンハウスクラフツ」の村口絵里さんのパンも好きで、国産小麦であれだけのクオリティのパンを焼いているっていうのは応援したいと思うし、嬉しい気持ちで食べますね。

あれはおいしかったなぁ……と記憶に残っているのは、北海道のウィンザーホテルの「ミシェル・ブラス」にいた当時、ホテル内のブーランジュリーで神幸紀さんという職人が週末に焼いていたトゥルトです。一緒に働いていたフランス人と買いに走って取り合いするように食べましたよ。肉を噛みしめるような食感で、香りがあってすごく旨かった。そのトゥルトを2cmほどの厚さに切って軽く焼いて、冷蔵庫から出したてのバターを塊のままのせて、ミシェル・ブラスで当時ぼくがつくっていたミルクジャムをかけて食べるっていうのが、最高の幸せでした。

 大阪から届く、レストランの料理のためのパン

そんなパンを店で使いたいと思って「ル・シュクレクール」の岩永さんにお願いしました。ぼくの好きなパンをきっと知っているという期待があったし、考えかたが似ていたからです。彼はパン生地を生き物として扱うんです。ぼくも塩と水以外の素材は生き物、あるいは生き物から抽出されたものとして常に対峙しています。

最初の「ラ・ボンヌ・ターブル」ではパンの味や香りの強さ、焦がし方、そして食感など多くを岩永さんに要求したんです。でも次にお願いした「レフェルヴェソンス」では、岩永さんが一番好きなパンを焼いてくれたらそれでじゅうぶんだと伝えました。パン職人が一番気持ちよく、誇りを持って焼くパンこそがお互いの幸せに繋がるんじゃないかと考えて。そして「パン・ラミジャン」に決まりました。結果として皆さん、パンがおいしいおいしいって(笑)。あのゆったりと大きなラミジャンは大阪から配送しても全くびくともしないし、ぼくらはいい具合にライ麦がなじんできた頃に使うことができる。むしろ2、3日置いたほうがおいしいんじゃないかと思っています。

 なぜパンに豆腐とサワークリームを合わせるか

パンにはやっぱりバターだと思います。でも、昨今のバター不足は大きなバターの消費者でもある飲食業として目をつぶれない。対応していく責任がある。もしぼくらがバターではないものでいけるんであれば、バターを本当に使わなきゃならない人たちが救われる。そこでレフェルヴェソンスではパンには豆腐と自家製のサワークリームでつくったスプレッドを添えることにしました。豆腐とサワークリームというアイデアは、当時「ブレストンコート ユカワタン」で総料理長を務めていた浜田統之シェフにヒントをいただきました。

豆腐は自然酒の蔵元、寺田本家からの紹介で「月のとうふ」。寺田さんが引いている地下水系の水で作っているのだから、おいしくないわけがない。大豆も地元のものです。店主の方にわけを話して「豆腐とは違う形になってしまうんですが」とお願いしてみたところ、こころよく送ってもらえることになりました。油脂分がないと味に深みが出ないので、高松の「SOUJU」のすごくおいしいオリーブオイルをかけています。

 古き良きものを守り、同時に新しい地平を探す

 ハタハタという絶滅寸前までいった魚からつくられる発酵調味料に「しょっつる」というのがありますが、これもぼくはスイーツなど新しい用途に用いることがあります。それによって「しょっつるって何?」と考えてもらえたら、それは秋田の海を守ることに繋がっていくんですよね。そういうことを、おいしい経験によって繋げたいと思っているんです。

青山パン祭りでは片根さんと一緒に焼きそばパンをつくりました。彼が青海苔の食パンを焼いて、その上にぼくがしょっつる焼きそばと半熟の目玉焼きをのせて、仕上げに青海苔のクルトン。2日間で200食、昼前にはなくなっちゃいました。どこで料理を作るのも自分のなかでは変わりません。

方向性としては古き良きものを守り、伝承していくことと、新しい地平を探していくことが、並列されていないと意味がないのですが、ぼくの仕事にはそれをよりいっそう新しいかたちに具現化していくことが託されているんじゃないかなと思っています。

 

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生江史伸 「レフェルヴェソンス」エグゼクティブ・シェフ

1973年横浜市出身。慶応大学法学部政治学科卒業後、「アクアパッツァ」などを経て、2003年「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で研鑽を積む。2008年、ロンドン近郊の「ザ・ファットダック」でスーシェフ及びペストリー担当。2010年、西麻布「レフェルヴェソンス」エグゼクティブ・シェフに就任。2015年、日本橋に「ラ・ボンヌ・ターブル」をプロデュース、そして「レフェルヴェソンス」をリニューアルオープン。2016年度「アジアのベスト・レストラン 50」にて、16位にランクイン。

 

『NKC Radar』Vol.75 p.26より転載

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