ブラフベーカリー 栄徳剛さんのパン時間

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』44人目のインタビュイーはブラフベーカリー オーナーシェフ、栄徳剛さんでした。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。

 

今、子供たちを喜ばせるようなものを作りたい
栄徳剛さん / ブラフベーカリー オーナーシェフ

 

f:id:mihokoshimizu:20170526091222j:plain

アメリカのちょっと甘いカントリーブレッド

20代の時にアメリカのナッシュビルで、ちょっと甘くて柔らかいカントリーブレッドに出合いました。アメリカには、見た目はハードなのに甘い味のパンがいろいろあるんですよね。そこにはパンの伝統がある国にはないおもしろさがありました。

 

料理に合わせるのは甘くないリーンなパンでなくてはならない、という定説みたいなものがあるけれど、アメリカでは甘いのがあってもいいんだな、自由でいいなと感じたのはその頃です。ただ甘いだけではなくて、ヘルシーにグレイン(雑穀)入りだったりするんですよね。

 

あれはハワイだったかな。家族でレストランに行った時、最初にパンが出てきたパンの中に甘いパンがあって、それを子どもたちが喜んで食べているのを見てふと、「料理に合わせるパンって何だろう?」と思ったんです。その時に思い浮かんだのがケロッグのコーンフレークスのことです。たぶん子どもたちは甘いパンを甘いシリアルの感覚で食べているんだなって思ったんです。そこから「ハニーグレイン」というパンを作るに至りました。シリアルはいろいろな種類があるから、ヒントになりますよ。そういう、子供たちを喜ばせるようなものを今、作りたいと思っています。

 

ハニーグレイン誕生秘話

ハニーグレインは石臼で挽いた粒度の粗いライ麦全粒粉にグレインミックス(ゴマ、ヒマワリの種、大豆など10種類ほどの穀物を粉にしたもの)、そしてライ麦と相性の良いココアをほんのり入れています。穀物特有の匂いを和らげるためにハチミツを入れていますが、甘さはハチミツだけにせず、砂糖も使います。この「甘くする」ということが

結構難しくて、どこまで砂糖を合わせていけば甘く感じるか何度も試した結果、食パンと菓子パンの中間の甘さに調整しています。

麦の味を活かすという目的で作るなら、ライ麦パンを甘くしちゃいけないと思うんですよ。でも自分がやりたいのはそこじゃないな、という想いがあるんです。

 

f:id:mihokoshimizu:20170526091344j:plain

味に深みを出すためにルヴァン種、そして雑穀のパンはある程度、噛みしめたほうがおいしいので、パネトーネ種を合わせています。パネトーネ種の乳酸菌は噛み応えに一役買ってくれました。噛み応え……最近よく考えるのは食感のことですね。これからは食感をデザインする時代だと思っています。こういうふうに口に入って、噛んで、溶けていくならどう溶けていくのか。口どけや噛み応えのために、素材や製法を考えるんです。ものすごく複雑なことをひとつのハニーグレインに納めているのです。その代わり、買った人は切るだけでいい。2センチくらいの厚さに切ってそのまま食べるのが一番おいしいかな。食事パンというより、ぱっと食べてもらえる、それで栄養もとれるパンにしたいと思いました。

 

ハニーグレインはベーシックなものの他、クリームチーズやドライフルーツの入ったものを作りましたが、ローズマリー&レーズンとか、イチジク&アニスとか、ハーブやスパイスを入れたものもこれからもっと作りたいと思っています。

 

忘れられないパン

忘れられないパンは、親父の店「フロリダ」の食パンです。ぼくは親父には習わず、学校で勉強して、パン職人としての育ての親はフランス人で、流行っている店で修業もしたからなんでも作れるような気分になっていたんです。食パンももちろん作れるよ、と。それが、久々に家に帰ってきて、親父の食パンを食べたときに、涙が出たんですよ。「これ……!おいしいなぁ……」って。食べた時、自分の中にあったおいしいもの、懐かしいものの記憶がわーっと蘇ってくる感じ。

自分の中の食パンの理想はここにある、と思いました。今、ブラフベーカリーで作っている「ホワイトブレッド」はそれに近い食パンです。

 

個人的にすごく好きなのは、キタノカオリのもちっとした食感があって、トーストするとサクッと歯切れがいい「ブラフブレッド」です。サクッという食感のためには生クリームをいれています。ホワイトブレッドがスタンダードな食パンなら、親父の時代に「上食」と呼んだのがこのブラフブレッドです。これは今、一番人気のパンです。トーストしてバターをのせるだけで最高においしいんですよ。この7月、カフェを近くにオープンさせるんですが、そこではこのブラフブレッドを使った上質なモーニングを提供する予定です。

 

栄徳剛 / ブラフベーカリー オーナーシェフ

 1976年横浜・石川町のベーカリー「フロリダ」を営む家に生まれる。1996年東京製菓学校卒業後、横浜・本牧にあった「ラミ・デュ・パン」に勤務。その後「ホリデイ・イン」(現「ローズホテル」)、「グランカフェ新橋ミクニ」、東京・三宿ブーランジェリー ラ・テール」「アルティザン・テラ」を経て、2010年、横浜・元町にアメリカンスタイルの「ブラフベーカリー」をオープン。 2017年はブラフベーカリーの出張所とカフェをオープン予定。

(NKC Radar Vol.77より転載)

『わたしの素敵なパン時間』Back  Number

mihokoshimizu.hatenablog.com