スカモルツァをのせて焼いたノアレザン。岸本拓也さんのパン時間。

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする『わたしの素敵なパン時間』41人目のインタビュイーはジャパン ベーカリーマーケティング株式会社代表取締役の岸本拓也さんでした。
多くの方に読んでいただけたらと思い、NKC Radarの許可を得て転載します。

 

スカモルツァをのせて焼いたノアレザンとサッカー観戦

岸本拓也さん / ジャパン ベーカリーマーケティング株式会社 代表取締役社長

 

外資系ホテルからパンに関わる仕事へ

前職は外資系の高級ホテルチェーンでした。そこではレストランの料理の価格がコースで15000円くらい、ケーキならひとつだいたい600円したんですが、パンは90円からあったんですね。
従業員食堂でホテルのシェフ達と会うと、料理哲学の話になることがあるんですが、それは料理ばかりではなく、パンもなんです。ひとつのパンのなかに、哲学や食の魅力、グルメの要素がぎっしり詰まっている。それを90円で買えるって、ものすごく安いもんだなと思ったんですよ。そういうパンの魅力を、地域の人たちに広げていく仕事がしたいと考えました。それが、ぼくがパンの仕事に携わるようになったきっかけです。

一流レストラン巡りとトツゼンベーカーズキッチン

ホテルに入社すると、まず最初にルームサービスやカフェやレストランのサービスをするのですが、その頃のぼくはベーカリーよりもレストランに興味がありました。大学を卒業したばかりで、憧れの大人の世界だったんですよ。レストランはお客さまが空間をつくる。そして空間がお店の雰囲気をつくる、ということを肌で感じました。

お客さまに夢を提供し、満足していただく仕事をするには、お客さまと同等かそれ以上の知識や体験をもって接客しなくてはならないし、知らなかったら恥ずかしいということがたくさんありました。だからボーナスが入るとパリやニューヨークにレストラン巡りに出かけたんです。勤めて3年目には一流と言われるレストラン「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」や「ピエール・ガニェール」にも行きましたよ。ボーナスなんて、すっからかんです。持っていた車も売っちゃいました。週末は格安航空券で香港に行ったり、2泊でニューオーリンズとかも行っていましたね。

ニューヨークで感銘を受けたのは、「ブーレー」です。レストランとベーカリーが一緒にそこにある。料理とパン、そしてお洒落なデザインが点と点で結ばれて店になっている感じです。それが面白くて、衝撃を受けましたね。パリに比べてすっきりと無駄のないシンプルなデザインの店がニューヨークにはたくさんありました。

日本にショコラティエという高級志向でスタイリッシュな専門店ができ始めたとき、そのうちパンも絶対にこういうスタイルの店がブレイクするぞと思いました。大倉山に「トツゼンベーカーズキッチン」をオープンさせたのはその頃です。いまはすこしカジュアルに路線変更しましたが、当初は黒のスーツで接客していましたからね。いつも、お客さまに楽しいサプライズを提供できたらと考えているんです。

ベーグルサンドとBLT

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トツゼンベーカーズキッチンで市内のジャズクラブやフレンチレストランにパンの配達をしていた頃、途中に落ち着けるカフェがあって、時々寄ってひと息ついていましたね。ベーグルのサンドがすごくおいしくてね。ミネストローネスープとかポテトサラダといった組み合わせはありきたりですが、そういうのが好きですよ。サンドイッチはBLT(ベーコン、レタス、トマト)サンドもいいですね。今プロデュースしている店でも、まっさきにBLTを提案しました。凝ったサンドイッチも悪くはないけれど、忙しくなっても店をまわしていけるか、トータルで考えますからね。BLTはつくりやすいし、みんな大好きです。

パンとワインと音楽とサッカー

トツゼンベーカーズキッチンのパンでは「ノアレザン」が気に入っています。クルミとレーズンのライ麦パンです。最近はまっているのが、薫製したモツァレラチーズ、「スカモルツア」。これをマヌカハニーなど、蜂蜜をつけたノアレザンの上にのせて焼いて、シナモンを振るんです。これがね、本当においしいんですよ。
奥さんにこれをつくってもらって、白ワインを飲みながら、サッカーを観る時間が一番好きです。夜食ですよ。土曜とかゆっくり家に居る夜にね。部屋にはいつも静かに音楽を流しているんですが、心地のいいソファで、スカモルツァをのせて焼いたノアレザンと白ワインと音楽とサッカーをね、一緒に楽しむのが、至福の時です。

 

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岸本拓也/ ジャパン ベーカリーマーケティング株式会社 代表取締役社長
横浜ベイシェラトン ホテルで広報PR・ブランディング・レストランカフェ・ホテルベーカリーのマーケティング・企画業務を担当。退社後、有限会社わらうかど設立。横浜・大倉山で「TOTSZEN BAKER’S KITCHEN(トツゼンベーカーズキッチン)」開業。2011年より震災地におけるベーカリープロデュースやベーカリーの新業態開発、売上改善、販売コンサルティングをスタート。 2013年にジャパンベーカリーマーケティング株式会社設立。

 『NKC Radar』Vol.74 p.10より転載

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