Bakeriから始まった長い一日。
朝、Greenpointのベーカリーカフェ、Bakeriへ。Bakeriの読み方は、「バケリ」というそうです。大きなテーブルに夫とのんびりと腰掛けてコーヒーを飲み、マフィンなど食べながら友を待ち、朝の店の雰囲気を楽しみました。
古風な木造のレジスターの台の上に、タブレットを設置しているのが今風です。
奥はオープンキッチンで、カウンター席からパンをつくるところが正面に見えるのが楽しい。大型のパンは朝のうちに焼き上がっています。
色とりどりの花や果実が描かれた壁紙にシャンデリアという、女の子の部屋のようなスイートな雰囲気のなかに、建設現場の作業員風な男性のお客さんの姿もあって、そういえば、ブルックリンではコンビニをほとんど見かけないなぁとあらためて思ったのでした。個人店に活気があり、個人店主とのつながりを大事にし、応援する人が多く住む界隈……だとしたら、素敵だ。
これもまた可愛い、バラのかたちのマフィンは、レモンポピーシードとピーチ。
レモンとポピーシードの組み合わせの焼き菓子が好きで、見つけると素通りできません。
朝食後はプラスキー橋を歩いて渡って、地下鉄でマンハッタンの66th stを目指します。
私がNYに行かない間に、ミッドタウンの新しい建物に引っ越して、そして再び古巣に戻ってきていたAmerican Folk Art Museumに行くために。Henry DargerのCollectionも観たかったし。ところがClosed。帰国まで展示入れ替えのために休館という憂き目に。がっくり肩を落とし、案内の人にも慰められたのでしたが、残念過ぎました。でもいつか再訪する理由が、これでひとつできました。See you someday......
お昼は気を取り直して、リンカーンセンター近くのÉpicerie Bouludのカフェへ。観劇や買いもの前後にちょっと寄るのにいい場所。
フレンチのシェフ、Daniel Bouludさんはいくつものレストランやカフェやバーを展開しています。新進気鋭のシェフ・ブーランジェ、François Brunetさんが以前、Bread Journalにメッセージを寄せてくださっていたことも良いきっかけとなって、訪れてみたのです。
ここは食料品店内のセルフサービスのカフェ。とはいえ、カウンターテーブルの目の前に新鮮なオイスターが何種類も並んでいたりなどもします。
ジャンボンフロマージュと熱々のカリフラワーのポタージュは、まさにこのお昼に食べたかった味でした。夫が選んだDBGBドッグ(ブリオッシュ生地)もまた、量も質もテイストもまるで東京で食べているような気持ちに。パリでもNYでもなくトーキョー。こういう食事の差異は縮まっているのかもしれません。
大好きなNYへ
9月28日からNYに行っていました。
と、3か月ぶりにBread Journalを時系列に更新しようとしています。できるかな?
以下Facebookより。
20年ぶりにして7回目のNYは何もかも初めましてな気分ながら、実際に初めてのことが多く、おもしろく。iPhoneを持って行くとか、Uberを体験するとか、Brooklyn で部屋を借りるとか。かならず訪れる美術館(Anerican Folkart Museum)は展示替えのため閉館中でがっくりでしたが、借りている部屋はFOLKARTや美しい古い家具たちが迎えてくれて、昔訪れたアンティークディーラーさんの家のよう。鬱蒼とした草花にくる虫除けなのか、夕方に戻るとキャンドルが灯っています。とくに観光の予定もなく、普段の生活を並行移動させてそのギャップを楽しんでいます。
そう、洗濯したり、リンゴを買ったりが、楽しかった。20年前と同じに。
After a long flight,we went to Roman's.
最初の夜に行ったROMAN'Sは心地のいい小さなレストラン。
パンはSHE WOLF BAKERYのもの。
香ばしいクラストは薄く、中身はふわっと軽いのにたっぷりのワイルドな旨みがある。
そういえばアメリカの小麦はこんなふうな力強さがあった、と、ちょっと思い出した。
SHE WOLF BAKERYは2009年にこの店の薪窯で始まったそうです。
いまでは、別の場所に工房を構え、市内のレストランに卸し、グリーンマーケットでの販売もしています。
NY産の小麦粉を使っているところが素敵です。
とにかくひどいフライトの後だったので、野菜の味のする野菜や、パンの味のするパンに身体が喜んでいるのがわかりました。ポテトフリタータ、野菜やチーズの前菜、ひよこ豆とレッドペッパーのマリネとブロッコリのパスタなど、お腹に優しそうな食事を、窓際のカウンターで、小雨を眺めながら摂りました。
そのうちにわかに混み始め、立ち飲みの人も。ものすごく賑わっているのに心地いいお店でした。
ここはアンドリュー・ターロウのお店です。アンドリュー・ターロウのことは確か、この本で知りました。
本当に必要なものは何か、考えてみること。自分が口にするもの、身につけるものは、どこで作られどこからやってきたのかを知ること。社会的な責任を大切に考える企業を支持すること。多数のそうした意識の積み重なりが、今のアメリカを少しずつ変えている。
そういうことを感じる旅にもなりました。
レフェルヴェソンス 生江史伸さんのパン時間
食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』42人目のインタビュイーは高樹町のレストラン、レフェルヴェソンスの生江史伸さんでした。
おいしいパンの向こう側にはどんなひとがいるのかに興味を持ったことから始まって、パンそのものより職人さんとそのひとの居る場所(店)の成り立ちかたにアプローチし、執筆していくなかで、そのパンの受けとり手の一個人として、自分の日々のパンの楽しみについても紹介してまいりましたが、同時に、食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあって、この企画が続いています。貴重なお時間を使ってご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心から感謝しています。
パン職人が誇りを持って、気持ちよく焼くパン
生江史伸さん / レフェルヴェソンス エグゼクティブ・シェフ
この人のパンが食べたい、という感覚
パンはいつも、この人が焼いたパンを食べたい、という感覚で食べています。
東京なら、つい先日も一緒に北海道の小麦農家さんを訪ねた「カタネベーカリー」の片根大輔さんが焼くパンが好きです。「ガーデンハウスクラフツ」の村口絵里さんのパンも好きで、国産小麦であれだけのクオリティのパンを焼いているっていうのは応援したいと思うし、嬉しい気持ちで食べますね。
あれはおいしかったなぁ……と記憶に残っているのは、北海道のウィンザーホテルの「ミシェル・ブラス」にいた当時、ホテル内のブーランジュリーで神幸紀さんという職人が週末に焼いていたトゥルトです。一緒に働いていたフランス人と買いに走って取り合いするように食べましたよ。肉を噛みしめるような食感で、香りがあってすごく旨かった。そのトゥルトを2cmほどの厚さに切って軽く焼いて、冷蔵庫から出したてのバターを塊のままのせて、ミシェル・ブラスで当時ぼくがつくっていたミルクジャムをかけて食べるっていうのが、最高の幸せでした。
大阪から届く、レストランの料理のためのパン
そんなパンを店で使いたいと思って「ル・シュクレクール」の岩永さんにお願いしました。ぼくの好きなパンをきっと知っているという期待があったし、考えかたが似ていたからです。彼はパン生地を生き物として扱うんです。ぼくも塩と水以外の素材は生き物、あるいは生き物から抽出されたものとして常に対峙しています。
最初の「ラ・ボンヌ・ターブル」ではパンの味や香りの強さ、焦がし方、そして食感など多くを岩永さんに要求したんです。でも次にお願いした「レフェルヴェソンス」では、岩永さんが一番好きなパンを焼いてくれたらそれでじゅうぶんだと伝えました。パン職人が一番気持ちよく、誇りを持って焼くパンこそがお互いの幸せに繋がるんじゃないかと考えて。そして「パン・ラミジャン」に決まりました。結果として皆さん、パンがおいしいおいしいって(笑)。あのゆったりと大きなラミジャンは大阪から配送しても全くびくともしないし、ぼくらはいい具合にライ麦がなじんできた頃に使うことができる。むしろ2、3日置いたほうがおいしいんじゃないかと思っています。
なぜパンに豆腐とサワークリームを合わせるか
パンにはやっぱりバターだと思います。でも、昨今のバター不足は大きなバターの消費者でもある飲食業として目をつぶれない。対応していく責任がある。もしぼくらがバターではないものでいけるんであれば、バターを本当に使わなきゃならない人たちが救われる。そこでレフェルヴェソンスではパンには豆腐と自家製のサワークリームでつくったスプレッドを添えることにしました。豆腐とサワークリームというアイデアは、当時「ブレストンコート ユカワタン」で総料理長を務めていた浜田統之シェフにヒントをいただきました。
豆腐は自然酒の蔵元、寺田本家からの紹介で「月のとうふ」。寺田さんが引いている地下水系の水で作っているのだから、おいしくないわけがない。大豆も地元のものです。店主の方にわけを話して「豆腐とは違う形になってしまうんですが」とお願いしてみたところ、こころよく送ってもらえることになりました。油脂分がないと味に深みが出ないので、高松の「SOUJU」のすごくおいしいオリーブオイルをかけています。
古き良きものを守り、同時に新しい地平を探す
ハタハタという絶滅寸前までいった魚からつくられる発酵調味料に「しょっつる」というのがありますが、これもぼくはスイーツなど新しい用途に用いることがあります。それによって「しょっつるって何?」と考えてもらえたら、それは秋田の海を守ることに繋がっていくんですよね。そういうことを、おいしい経験によって繋げたいと思っているんです。
青山パン祭りでは片根さんと一緒に焼きそばパンをつくりました。彼が青海苔の食パンを焼いて、その上にぼくがしょっつる焼きそばと半熟の目玉焼きをのせて、仕上げに青海苔のクルトン。2日間で200食、昼前にはなくなっちゃいました。どこで料理を作るのも自分のなかでは変わりません。
方向性としては古き良きものを守り、伝承していくことと、新しい地平を探していくことが、並列されていないと意味がないのですが、ぼくの仕事にはそれをよりいっそう新しいかたちに具現化していくことが託されているんじゃないかなと思っています。
生江史伸 「レフェルヴェソンス」エグゼクティブ・シェフ
1973年横浜市出身。慶応大学法学部政治学科卒業後、「アクアパッツァ」などを経て、2003年「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で研鑽を積む。2008年、ロンドン近郊の「ザ・ファットダック」でスーシェフ及びペストリー担当。2010年、西麻布「レフェルヴェソンス」エグゼクティブ・シェフに就任。2015年、日本橋に「ラ・ボンヌ・ターブル」をプロデュース、そして「レフェルヴェソンス」をリニューアルオープン。2016年度「アジアのベスト・レストラン 50」にて、16位にランクイン。
『NKC Radar』Vol.75 p.26より転載
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Signifiant Signifié 10th Anniversary
自分の話になりますが、
先日、ある集まりで「この仕事をどのくらいされているんですか」と若い方に尋ねられて、「16年くらいかな」とお答えしたら、「16年!長いですねーーー」と言われました。「長いですか?」と言いながらも、その方の人生の半分くらいかもしれないと気づき、いつの間にか年を重ねたなぁと思いました。あまり進歩していないですが、有り難いことです。昔、取材させていただいた職人さんの今のご活躍をうれしく眺めることができ、おなじ時代に生きていてよかった、と思います。
さて、感動をひとりじめしていないで、来年は志賀さんのバゲットについて、きっちりレポートしたいと思います。
BRUTUS『365日、サンドイッチ。』
マガジンハウスBRUTUS誌、9月1日発売号はサンドイッチ特集です。
美女とサンドイッチ。とか、注文の多いサンドイッチ店。とか、サバと海の仲間たち。とか……ただならぬ雰囲気で、365個のサンドイッチをご紹介。読み&食べ応えたっぷりです。
たっぷりといえば、わたしも書かせていただきました(文字数のほうはたっぷりではなかったけれど、そこは俳人にでもなったつもりで濃く)。
巻頭の「ボリューム満点、魅惑の断面、爆盛りサンドはグラフィックアートだ!」では、最近話題の爆盛りサンドを8つを紹介。
表紙のフォトジェニックなカバーガールならぬカバーサンドはこれ、代官山KING GEORGEの「ベジタリアン」です。隠し味のオリーブが効いていていました。
「きょうび、バターは挟むもの。」では、板バターサンド5つを紹介。
バター不足の昨今、多少の背徳感のある贅沢、ですがシンプルなパンとバターは基本的なトレボンマリアージュ、これ以上はないような、相性のよい組み合わせではないでしょうか。
大船のCALVAの「ティエリーのバターサンド」は124円(税込)。124円!
自家製リンゴ種でつくられたルヴァンで、ティエリーというのは話題のティエリーマルクスさん直伝というところからきています。
Bread Journal読者の方はもう何度も目にしているかもしれませんが、バターは固体が口の中で溶ける時が一番おいしい、とわたしは思います。パン職人さんも、窯のまえでパクリとやっているに違いありません。
板状のつめたいバターだけを挟んだサンドイッチを商品にしたものに最初に出合ったのは、2005年、大阪のパンデュースでした。その潔さに感動したのを覚えています。All Aboutに記事がありました。
http://allabout.co.jp/gm/gc/217404/2/
今回の特集には載せられず残念でしたが、これは今も、パンデュース本店でのみ、販売されています。ひっそりと愛され続けているサンドイッチです。
この特集では他にもいくつか素敵なお店を編集部にご紹介させていただきました。
これからゆっくり、楽しもうと思います。
個人的に、今、気になっているのは、コラム『きたれ変態(マニア)さん』に掲載されていたピエールさんです。ピエールさんは一日三食必ずバゲットを食し、世界中旅しているのだそう!すごい。
BRUTUSじたい、細かい字でそんなふうなマニアックな情報が爆盛りです。
話がそれますが、最後に一つだけ。
先週末、20年ほど前のNY特集をみつけたので読み耽っていました。NYだし20年前だし、お店だってほとんどクローズしていたり移転したり、街の情報は当然、変化しています。それを目を細めて読むわたしは、ある種の変態(マニア)かもしれません。
でも、じつにおもしろい。情報誌なのにずっと読める。お店がなくなっていてガイドブックとして機能しなくても、おもしろい。そんな雑誌に少しだけでも書くことができて、身の引き締まる想い。嬉しい経験でした!
シニフィアン シニフィエ×Fromagerie QUATREHOMME
シニフィアン シニフィエのオンラインショップで、パリで人気のチーズ屋さん「QUATREHOMME(キャトルオム)」の「カマンベール ド ノルマンディ AOP ガロンド」とそれに合わせた特製のパン「レザン オ ラム︎」のセットの受付が始まりました。
予約販売:キャトルオム熟成チーズとパンセット - Signifiant Signifie
QUATREHOMMEはフランスで女性初のMOF(フランス国家最優秀職人賞)の称号を持つマリー・キャトルオムさんのお店で、顧客にはピエール・ガニエール、アラン・デュカス、ジョエル・ロブションなど有名シェフが名前を連ねています。
QUATREHOMMEの正式な輸入は日本初。
そもそもは「シニフィアン シニフィエのパンに合う最高においしいバターを探そう!」というプロジェクトがあって、QUATREHOMMEのバターとの出合いがあり、チーズも最高においしかったため、このコラボに繋がったのだそうです。残念ながらバターは賞味期限の関係で輸入が難しく断念。しかし、おかげさまでこのチーズ!
この春、マリーさんがチーズを持ってシニフィアン シニフィエを訪れた際に、パンのおいしさに魅了されたこともあって、このコラボレーションは成立しました。
幸運にもその場に居合わせた私は、いくつかのチーズをテイスティングさせていただき、久しぶりにパンとチーズの素晴らしいマリアージュを体験することができました。
個人的に最も好きなチーズがコンテなので、マリーさんの48ヶ月と36ヶ月熟成コンテAOPときたら、ミルキーなコクもジャリっとした旨みの粒子も、感動ものでした。ほかには48ヶ月熟成ゴーダ、オッソーイラティAOP(羊乳)。白カビ系は、カマンベール オ カルヴァドス(カルヴァドスをしみこませたパン粉がまぶしてある)、もちもちのブリードモー ダブル(QUATREHOMMEのスペシャリテ)。シェーブルはピコドンAOP、シャロレーオゥウイスキー(ニッカウィスキーで洗ったスペシャリテ)、レイヨン(フルムダンベールに甘口ワインを混ぜたもの)など。どれも濃厚で、シニフィアン シニフィエの旨味たっぷりのシンプルなパンによく合います。そしてバター……。バゲットやカンパーニュに、贅沢にのせていただきましたが、これがまさに夢のような味でした(夢になってしまいました)。
キャトルオム熟成カマンベールとシニフィアン シニフィエの「レザン オ ラム」は
10月2日から10月4日発送。予約受付は9月11日まで。
予約販売:キャトルオム熟成チーズとパンセット - Signifiant Signifie
そのほかのチーズについては未定です。新しいお知らせはシニフィアンシニフィエのサイトをご覧ください。
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