Signifiant Signifié 10th Anniversary

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シニフィアンシニフィエの10周年記念パーティへ。
志賀さんのお仕事を眺めていると、国産小麦へ、医食同源へと向かい、究め続けられている10年かなと思います。驚いたり感嘆しているのはこちらばかりで、志賀さんはいつも淡々と、飄々とされています。

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今から11年前に出した本に、「志賀さんの長時間発酵バゲット。これほどまで職人の名前とともにパンが語られる例を他に知らない。長時間発酵という言葉をよく耳にするようになった今でも、志賀勝栄さんのバゲットは他にない個性的な魅力を放っている」と書きました。

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今日はそんな志賀さんの新作「120時間発酵バゲット」に感動しています。「わたし、今、すごいものを食べているかも!」と思ったのです。砂糖が入っているわけではないのにほんとうに甘い。甘い、と書いてうまい、とも読みますが、あまくてうまかった。小麦粉と水と酵母と塩だけでつくられていているシンプルなものなのに、なんという個性。世の中にはさまざまなバゲットがあって、そのなかでもまだこのような出合いがあるから、興味が尽きません。「こんなの初めて!」と声をあげてしまうようなバゲットでした。「120時間発酵バゲット」は来年発売予定だそうです。

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自分の話になりますが、
先日、ある集まりで「この仕事をどのくらいされているんですか」と若い方に尋ねられて、「16年くらいかな」とお答えしたら、「16年!長いですねーーー」と言われました。「長いですか?」と言いながらも、その方の人生の半分くらいかもしれないと気づき、いつの間にか年を重ねたなぁと思いました。あまり進歩していないですが、有り難いことです。昔、取材させていただいた職人さんの今のご活躍をうれしく眺めることができ、おなじ時代に生きていてよかった、と思います。

さて、感動をひとりじめしていないで、来年は志賀さんのバゲットについて、きっちりレポートしたいと思います。

BRUTUS『365日、サンドイッチ。』

マガジンハウスBRUTUS誌、9月1日発売号はサンドイッチ特集です。

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美女とサンドイッチ。とか、注文の多いサンドイッチ店。とか、サバと海の仲間たち。とか……ただならぬ雰囲気で、365個のサンドイッチをご紹介。読み&食べ応えたっぷりです。

たっぷりといえば、わたしも書かせていただきました(文字数のほうはたっぷりではなかったけれど、そこは俳人にでもなったつもりで濃く)。

巻頭の「ボリューム満点、魅惑の断面、爆盛りサンドはグラフィックアートだ!」では、最近話題の爆盛りサンドを8つを紹介。

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表紙のフォトジェニックなカバーガールならぬカバーサンドはこれ、代官山KING GEORGEの「ベジタリアン」です。隠し味のオリーブが効いていていました。

 

「きょうび、バターは挟むもの。」では、板バターサンド5つを紹介。

バター不足の昨今、多少の背徳感のある贅沢、ですがシンプルなパンとバターは基本的なトレボンマリアージュ、これ以上はないような、相性のよい組み合わせではないでしょうか。

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大船のCALVAの「ティエリーのバターサンド」は124円(税込)。124円!
自家製リンゴ種でつくられたルヴァンで、ティエリーというのは話題のティエリーマルクスさん直伝というところからきています。

Bread Journal読者の方はもう何度も目にしているかもしれませんが、バターは固体が口の中で溶ける時が一番おいしい、とわたしは思います。パン職人さんも、窯のまえでパクリとやっているに違いありません。

 

板状のつめたいバターだけを挟んだサンドイッチを商品にしたものに最初に出合ったのは、2005年、大阪のパンデュースでした。その潔さに感動したのを覚えています。All Aboutに記事がありました。

http://allabout.co.jp/gm/gc/217404/2/

今回の特集には載せられず残念でしたが、これは今も、パンデュース本店でのみ、販売されています。ひっそりと愛され続けているサンドイッチです。

 

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 この特集では他にもいくつか素敵なお店を編集部にご紹介させていただきました。
これからゆっくり、楽しもうと思います。

 

個人的に、今、気になっているのは、コラム『きたれ変態(マニア)さん』に掲載されていたピエールさんです。ピエールさんは一日三食必ずバゲットを食し、世界中旅しているのだそう!すごい。

 

BRUTUSじたい、細かい字でそんなふうなマニアックな情報が爆盛りです。

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話がそれますが、最後に一つだけ。

先週末、20年ほど前のNY特集をみつけたので読み耽っていました。NYだし20年前だし、お店だってほとんどクローズしていたり移転したり、街の情報は当然、変化しています。それを目を細めて読むわたしは、ある種の変態(マニア)かもしれません。


でも、じつにおもしろい。情報誌なのにずっと読める。お店がなくなっていてガイドブックとして機能しなくても、おもしろい。そんな雑誌に少しだけでも書くことができて、身の引き締まる想い。嬉しい経験でした!

 

シニフィアン シニフィエ×Fromagerie QUATREHOMME

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シニフィアン シニフィエのオンラインショップで、パリで人気のチーズ屋さん「QUATREHOMME(キャトルオム)」の「カマンベール ド ノルマンディ AOP ガロンド」とそれに合わせた特製のパン「レザン オ ラム︎」のセットの受付が始まりました。

予約販売:キャトルオム熟成チーズとパンセット - Signifiant Signifie

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QUATREHOMMEはフランスで女性初のMOF(フランス国家最優秀職人賞)の称号を持つマリー・キャトルオムさんのお店で、顧客にはピエール・ガニエール、アラン・デュカス、ジョエル・ロブションなど有名シェフが名前を連ねています。

QUATREHOMMEの正式な輸入は日本初。

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そもそもは「シニフィアン シニフィエのパンに合う最高においしいバターを探そう!」というプロジェクトがあって、QUATREHOMMEのバターとの出合いがあり、チーズも最高においしかったため、このコラボに繋がったのだそうです。残念ながらバターは賞味期限の関係で輸入が難しく断念。しかし、おかげさまでこのチーズ!

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この春、マリーさんがチーズを持ってシニフィアン シニフィエを訪れた際に、パンのおいしさに魅了されたこともあって、このコラボレーションは成立しました。

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幸運にもその場に居合わせた私は、いくつかのチーズをテイスティングさせていただき、久しぶりにパンとチーズの素晴らしいマリアージュを体験することができました。

個人的に最も好きなチーズがコンテなので、マリーさんの48ヶ月と36ヶ月熟成コンテAOPときたら、ミルキーなコクもジャリっとした旨みの粒子も、感動ものでした。ほかには48ヶ月熟成ゴーダ、オッソーイラティAOP(羊乳)。白カビ系は、カマンベール オ カルヴァドスカルヴァドスをしみこませたパン粉がまぶしてある)、もちもちのブリードモー ダブル(QUATREHOMMEのスペシャリテ)。シェーブルはピコドンAOP、シャロレーオゥウイスキー(ニッカウィスキーで洗ったスペシャリテ)、レイヨン(フルムダンベールに甘口ワインを混ぜたもの)など。どれも濃厚で、シニフィアン シニフィエの旨味たっぷりのシンプルなパンによく合います。そしてバター……。バゲットやカンパーニュに、贅沢にのせていただきましたが、これがまさに夢のような味でした(夢になってしまいました)。

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キャトルオム熟成カマンベールとシニフィアン シニフィエの「レザン オ ラム」は
10月2日から10月4日発送。予約受付は9月11日まで。

予約販売:キャトルオム熟成チーズとパンセット - Signifiant Signifie

Fromagerie QUATREHOMME

 そのほかのチーズについては未定です。新しいお知らせはシニフィアンシニフィエのサイトをご覧ください。

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最近の記事UPはこちら

今秋注目!ティエリー・マルクスの料理とパン

 

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この秋、銀座四丁目交差点、和光の時計塔を正面に臨む複合商業施設「GINZA PLACE」にパリの2つ星フレンチレストランの総料理長、ティエリー・マルクスのレストラン「Thierry Marx」とビストロ&カフェ「GRAND BISTRO MARX」がOPENする。

注目したいのはティエリー・マルクス氏のパンへ想い。

都内某ラボにてインタビューさせていただきました。近日公開予定。

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最近のUPはこちら。

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スカモルツァをのせて焼いたノアレザン。岸本拓也さんのパン時間。

食に関わる仕事をする人に日々のパンについてインタビューする『わたしの素敵なパン時間』41人目のインタビュイーはジャパン ベーカリーマーケティング株式会社代表取締役の岸本拓也さんでした。
多くの方に読んでいただけたらと思い、NKC Radarの許可を得て転載します。

 

スカモルツァをのせて焼いたノアレザンとサッカー観戦

岸本拓也さん / ジャパン ベーカリーマーケティング株式会社 代表取締役社長

 

外資系ホテルからパンに関わる仕事へ

前職は外資系の高級ホテルチェーンでした。そこではレストランの料理の価格がコースで15000円くらい、ケーキならひとつだいたい600円したんですが、パンは90円からあったんですね。
従業員食堂でホテルのシェフ達と会うと、料理哲学の話になることがあるんですが、それは料理ばかりではなく、パンもなんです。ひとつのパンのなかに、哲学や食の魅力、グルメの要素がぎっしり詰まっている。それを90円で買えるって、ものすごく安いもんだなと思ったんですよ。そういうパンの魅力を、地域の人たちに広げていく仕事がしたいと考えました。それが、ぼくがパンの仕事に携わるようになったきっかけです。

一流レストラン巡りとトツゼンベーカーズキッチン

ホテルに入社すると、まず最初にルームサービスやカフェやレストランのサービスをするのですが、その頃のぼくはベーカリーよりもレストランに興味がありました。大学を卒業したばかりで、憧れの大人の世界だったんですよ。レストランはお客さまが空間をつくる。そして空間がお店の雰囲気をつくる、ということを肌で感じました。

お客さまに夢を提供し、満足していただく仕事をするには、お客さまと同等かそれ以上の知識や体験をもって接客しなくてはならないし、知らなかったら恥ずかしいということがたくさんありました。だからボーナスが入るとパリやニューヨークにレストラン巡りに出かけたんです。勤めて3年目には一流と言われるレストラン「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」や「ピエール・ガニェール」にも行きましたよ。ボーナスなんて、すっからかんです。持っていた車も売っちゃいました。週末は格安航空券で香港に行ったり、2泊でニューオーリンズとかも行っていましたね。

ニューヨークで感銘を受けたのは、「ブーレー」です。レストランとベーカリーが一緒にそこにある。料理とパン、そしてお洒落なデザインが点と点で結ばれて店になっている感じです。それが面白くて、衝撃を受けましたね。パリに比べてすっきりと無駄のないシンプルなデザインの店がニューヨークにはたくさんありました。

日本にショコラティエという高級志向でスタイリッシュな専門店ができ始めたとき、そのうちパンも絶対にこういうスタイルの店がブレイクするぞと思いました。大倉山に「トツゼンベーカーズキッチン」をオープンさせたのはその頃です。いまはすこしカジュアルに路線変更しましたが、当初は黒のスーツで接客していましたからね。いつも、お客さまに楽しいサプライズを提供できたらと考えているんです。

ベーグルサンドとBLT

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トツゼンベーカーズキッチンで市内のジャズクラブやフレンチレストランにパンの配達をしていた頃、途中に落ち着けるカフェがあって、時々寄ってひと息ついていましたね。ベーグルのサンドがすごくおいしくてね。ミネストローネスープとかポテトサラダといった組み合わせはありきたりですが、そういうのが好きですよ。サンドイッチはBLT(ベーコン、レタス、トマト)サンドもいいですね。今プロデュースしている店でも、まっさきにBLTを提案しました。凝ったサンドイッチも悪くはないけれど、忙しくなっても店をまわしていけるか、トータルで考えますからね。BLTはつくりやすいし、みんな大好きです。

パンとワインと音楽とサッカー

トツゼンベーカーズキッチンのパンでは「ノアレザン」が気に入っています。クルミとレーズンのライ麦パンです。最近はまっているのが、薫製したモツァレラチーズ、「スカモルツア」。これをマヌカハニーなど、蜂蜜をつけたノアレザンの上にのせて焼いて、シナモンを振るんです。これがね、本当においしいんですよ。
奥さんにこれをつくってもらって、白ワインを飲みながら、サッカーを観る時間が一番好きです。夜食ですよ。土曜とかゆっくり家に居る夜にね。部屋にはいつも静かに音楽を流しているんですが、心地のいいソファで、スカモルツァをのせて焼いたノアレザンと白ワインと音楽とサッカーをね、一緒に楽しむのが、至福の時です。

 

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岸本拓也/ ジャパン ベーカリーマーケティング株式会社 代表取締役社長
横浜ベイシェラトン ホテルで広報PR・ブランディング・レストランカフェ・ホテルベーカリーのマーケティング・企画業務を担当。退社後、有限会社わらうかど設立。横浜・大倉山で「TOTSZEN BAKER’S KITCHEN(トツゼンベーカーズキッチン)」開業。2011年より震災地におけるベーカリープロデュースやベーカリーの新業態開発、売上改善、販売コンサルティングをスタート。 2013年にジャパンベーカリーマーケティング株式会社設立。

 『NKC Radar』Vol.74 p.10より転載

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Du Pain et Des Idées 日本初上陸!

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クリストフ・ヴァスールさんの Du Pain et Des Idées(デュ・パン・エ・デジデ)が待望の日本初上陸。青山のリチュエル パー クリストフ・ヴァスール(RITUEL par Christophe Vasseur)内で6月18日~7月24日、期間限定オープンする。
販売はパン・デ・ザミ ®(約12×15㎝ /税込490円)とタルティーヌが予定されている。
初の書籍『Le Pain de la Terre à la Table』も同時発売。

Du Pain et Des Idéesとパン・デ・ザミ ®、クリストフさんについては過去の記事をご参照ください。

デュ・パン・エ・デジデのクリストフさんが友達と食べたかったパン。: Bread Journal

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J'AIME PARIS アラン・デュカスのお気に入り パン職人編: Bread Journal

 

詳細はあらためて。

地元パン手帖

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甲斐みのりさんの『地元パン手帖』(グラフィック社)を拝読した。
北海道から沖縄まで、みのりさんが10年ほどかけて「採集」した地域のパンの図鑑だ。

 

この10数年のわたしは、スーパーなどで販売されている袋入りのパンを買う機会が減っていたので、そのビジュアルに子供の頃のノスタルジックな昭和を見つけて、懐かしい想いにとらわれた。


しかしこれはパンの懐古図鑑ではない。当時の素朴なキャラクターやロゴが時代を超えて現役で日本各地に存在しているのだ。それは愛され続けているしるしだ。

 

東京では(もちろん地方でもきっと)シーズンや行事ごとに目新しいパンを、季節限定のパンを、と各社、各店こぞって商品開発会議が開かれるが、こうしてずっと昔懐かしい姿のまま、愛され続けるパンもあるのだな。

で、『地元パン手帖』のなかで、一番食べてみたいパンは愛知県の「こらくや」のシベリヤ。カステラの間に挟まれているのは羊羹ではなくて、泡雪だ。道の駅「藤川宿」で買えるそう。

 

わたしは食べものや町について、みのりさんが書く文章が好きだ。
みのりさんが書かれると、知っているはずのもの、自分が普段なんとなく見過ごしていたものが、異なった顔を、風景をみせる。それらが実は宝もののように素敵なものだったということに気づかせてもらい、新鮮なおどろきに包まれる。
最近は杉並区で配布されていた『物語が生まれた場所』(中央線あるあるプロジェクト実行委員会)でもそんな素敵な体験をした。

 

みのりさんは文章を書かれる時、「なにかを否定する時間を惜しみ、好きなことをもっと深く追いかけていたい」という気持ちでいるという。その姿勢に、わたしは心から共感している。